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セマンティックWebによる情報統合 〜Web 2.0と情報活用を支えるメタデータ
セマンティックWebによる情報統合 〜Web 2.0と情報活用を支えるメタデータ

第3回:エンタープライズの世界におけるセマンティックWeb
著者:野村総合研究所   田中 達雄   2006/9/1
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フィンランド美術館の実証実験

   フィンランド美術館の実証実験は、異なる語彙やデータフォーマットを使用している異なる複数の美術館の美術品をワンストップで検索可能にしたものである。

   これまで美術館では個別に検索システムを用意し、それぞれ独自の語彙やデータフォーマット、分類方法を使用していた。そのため、異なる複数の美術館の美術品をワンストップで検索することは困難であった。

フィンランド美術館の実証実験
図2:フィンランド美術館の実証実験
出典:野村総合研究所
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)

   これに対し、この実験プロジェクトではセマンティックWebを使うことで、複数の美術館で保管されている美術品をワンストップで検索することに成功している。

   具体的には、個々の美術館のデータフォーマットをメタデータとし、語彙や分類方法をオントロジーとし、ソースコードから切り離し、それぞれをRDFとOWLとして定義し、一元化した。そのため、仮に検索する美術館を追加する場合もRDFの追加、OWLの変更だけでソースコードの開発は必要とせず拡張することが可能となっている。

   この事例を単なる検索システムと捉えないでほしい。過去、セマンティックWebは知的な検索を実現する技術として紹介されていたため、検索技術として捉えられることが多いが、視点を変えてみると、異なる複数の独立したシステムのデータをセマンティックWebを使うことで統合していることがわかる。


スイス生命の実証実験

   スイス生命の実証実験は、独自の恣意的な語彙で作成保管されている資料を、国際会計標準(IAS:International Accounting Standard)の語彙にのっとって検索ができるようにした事例である。

   スイス生命では国際会計標準の制定により、国際会計標準に関する資料の検索を可能にする必要性に迫られた。とはいえ、過去に作成され保管されている資料は、スイス生命ローカルで恣意的な語彙で作成されたもので、国際会計標準にそったものではない。その上、従業員のすべてが国際会計標準に関する十分な知識を持っているわけではなく、国際会計標準の語彙とスイス生命ローカルな語彙との関係を理解しているわけでもない。

   国際会計標準の知識に乏しい従業員でもそれに関する資料を検索できるようにするために、スイス生命ではセマンティックWebの実証実験を行った。具体的には、国際会計標準用語のオントロジーとスイス生命ローカル語彙のオントロジーを作成し、両者を統合した。その結果、国際会計標準用語とスイス生命ローカル語彙が関係付けられ、エクストラネット上に存在する資料の中から国際会計標準に関係する資料を国際会計標準に関する知識がなくても検索可能になった。

スイス生命の実証実験
図3:スイス生命の実証実験
出典:野村総合研究所
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)

   法規制を遵守(コンプライアンス)するために、これまで当たり前に使っていた語彙が通用しなくなることがしばしばある。その際、日々恣意的に入力されるデータや過去に作成してしまった大量データが問題となる。これらをすべて更新したり統制をかけたりすることは困難であり、それよりはむしろ、これらを許容しながらも遵守可能とする方法、即ちセマンティックWebを適用する方法を選択したのがこの事例である。

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野村総合研究所 田中 達雄
著者プロフィール
株式会社野村総合研究所  田中 達雄
1989年4月に富士通株式会社に入社。ソフトウェア工学を専門分野とし「UMLによるオブジェクト指向開発実践ガイド(技術評論社出版)」を共著。2001年2月に野村総合研究所に入社。現在、情報技術本部にてIT動向の調査と分析を行うITアナリスト集団に所属。Webサービス/BPMなどの統合技術、エンタープライズ・アーキテクチャなどが専門。


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第3回:エンタープライズの世界におけるセマンティックWeb
  はじめに
フィンランド美術館の実証実験
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