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GAPS2
ビジネスとITのギャップを埋める〜システム開発の失敗を招く4種類のギャップ〜

第1回:ビジネスとITのギャップとは何か
著者:ウルシステムズ  林 浩一   2007/3/9
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XML-EDIの事例

   2000年当時、インターネットが世界的に普及したことを受け、企業間の取り引きをXMLメッセージの交換によって進めようという動きが盛り上がった。この動きは製造業をはじめ様々な分野に波及し、業界をあげた一大ムーブメントになったことを覚えている方もいると思う。

   現在、XMLを使ったデータ通信/取り引きは、ビジネス的/技術的を問わずできて当たり前になってきている。しかし当時は難しい面も多く、様々な失敗事例が起きた。ここで紹介する例は、実際に筆者が体験した失敗事例をもとに専門外の方にもわかるように説明用に単純化したものだ。

   ここでいうXMLを用いた電子商取り引きとは、製造業をはじめとしたいくつかの業界で進められたもので、XMLという標準データフォーマットを使って定義されたメッセージによって複数の企業間で部品や材料の受発注などを行う取り組みである。XMLベースの電子商取引システムの導入以前は、様々な相手と取り引きを行うために、その相手・用途ごとに、EDI(Electronic Data Interchange)と呼ばれる固定長メッセージを使った従来型の電子受発注システムや電話、FAXなど様々な方法が用いられていた。

   また、送受信されるデータや帳票フォーマットは取り引き相手ごとに異なり、さらに正規の発注はEDIを利用するが、その後のキャンセルや修正などは電話/ファックスを使うといったバリエーションも見られた。このため、業務作業は非常に複雑なものになってしまっていた。

   これに対して、XMLを使ったデータ通信/取り引きは、XMLという標準的なメッセージをインターネット経由で送受信することで、様々な課題を解決して業界全体でメリットを得ようとしたものである。この取り組みは、BOD評価の視点から次のような特徴を持っている。
  • ビジネス上の目的としては、取り引きにかかる通信時間を短縮するとともに交換できる情報量を増やし、取り引きタイミングや取り引き量などの自動決定を可能にする。さらに、自動的に取引相手まで選定することで、その時々でもっともコストの低い取り引きを行うという新しいビジネスモデルの実現が期待された

  • 業務効率化の観点では、キャンセルや修正といったフローも決めることで、それまで行われていた複数種類の取り引き方法を1つに統一できる。このため業務プロセスの大幅な単純化が期待された

  • システム開発の特徴は、取り引き企業間で通信の標準規約を確認し、それぞれの企業が開発を進めた後にメッセージ通信による結合試験を行うというものである。この中では、業界全体で標準を策定しようという動きもあった

  • 技術上の特徴としては、XMLメッセージをSOAP技術などをベースにした交換プロトコルを用い、各企業のサーバ間で通信を行うというもの。多くの場合、決められたフローに従ってXMLでの通信を行う通信サーバが用いられた

表2:XMLを使ったデータ通信/取り引きの特徴


事例で見る失敗パターンとギャップ

   4種類の失敗を引き起こす要因はそれぞれ異なっており、筆者はそれぞれゴール(目的:Goal)、アクティビティ(業務:Activity)、プロセス(工程:Process)、スキル(技術:Skill)のギャップと呼んでいる。それぞれの頭文字をとるとGAPSとなる。ギャップ自体がギャップ(gaps of GAPS)なので、GAPS2モデルと呼ばれる。

「GAPS2」失敗を引き起こす4つのギャップ
図2:「GAPS2」失敗を引き起こす4つのギャップ

   それでは、事例を使ってそれぞれのパターンの失敗とギャップを具体的に見ていく。


ゴールのギャップ

   ゴールのギャップが引き起こす失敗のパターンは「無意味なシステムを作ってしまう」ことだ。

ゴールのギャップ
図3:ゴールのギャップ

   システムは企画した通りに動いているにもかかわらず、ビジネス上の狙いを達成できないというケースだ。このような失敗が起きると、システム開発にかかった時間と費用が無駄になるばかりか、当初狙っていたビジネス機会を失ってしまうため、結果的に大きな損失となる。

   XMLでの電子商取引の事例では、紆余曲折の結果、システムは完成して稼働を開始したものの、一部の取り引き先しか対応できず、もともとの狙いであった複数の取り引き先間での自動制御といったところまでたどり着くことはできなかったケースが多かった。

   インターネットを用いた高速通信という目的は達成したのでまったく意味がないわけではなかったが、それだけではわざわざXMLを用いた高価な取り引きシステムを構築する必要はなかったといえる。

   この例でのゴールのギャップの正体は、ビジネス上の狙いとシステムが実現する機能の整合がとれていないということだ。狙いを達成するためには構築したシステムの機能だけでは十分ではなく、目的にそわなかったため、当然のようにビジネス上の狙いを実現できないという結果をもたらすことになった。

   事例からもわかるように、ビジネス上の成功を実現するにはシステムだけでは十分でない。他の手段も同時に適用することによってはじめて成功につながるのだ。この事例はもともと無理なビジネス意図を持っていた面もある。しかし、ビジネス上の意図が妥当だったとしても、それがシステム開発側に伝わらなかったことが原因で、求められているものとは違うシステムを作ってしまうケースも多い。

   ゴールのギャップを埋めるにはビジネス目的の全体像を把握し、その中でシステムが占める位置を理解しなければならない。その理解の上でシステム化計画を立案できる力が必要だ。

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ウルシステムズ株式会社 林 浩一
著者プロフィール
ウルシステムズ株式会社  林 浩一
アジャイル開発手法やXML技術を駆使して、ビジネスとITのギャップを埋めるITコンサルティングを行う部門を率いるディレクター。お客様のビジネスを本当に支援できる先端技術の活用を目指して、理論と実践の両面からアプローチしている。


INDEX
第1回:ビジネスとITのギャップとは何か
  ビジネスとITのギャップには種類がある
XML-EDIの事例
  アクティビティのギャップ
  スキルのギャップ