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オープンソース営業心得
オープンソース営業心得〜営業とはなにか

第1回:オープンソース黎明期の営業現場
著者:ビーブレイクシステムズ  高橋 明   2005/11/9
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はじめに

   "営業"という言葉を聞いただけで、「向いてないなぁ」と思ったり、「きつそうだなぁ」と嫌忌する人も少なくないと思います。また、「実際の開発現場のうえで、営業を知らなくても何の問題もないし…」といった感情をお持ちになる人も多いのではないでしょうか。しかしながら社会生活を送るうえで、自身が好む・好まないに関わらず、営業をしないで生きていくことは不可能に近いと思います。

   それは一日一日の営みの成果(営業の成果)として給料をもらっているからと考えることもできます。例えばプログラマであれば、開発リーダーが望む良いコードを書くことでリーダーに満足してもらい、その成果として給料をもらうということが営業といえるのではないでしょうか。また行きつけの店をつくって、たまにはビールを一杯ごちそうしてもらうことが足繁くその店に通った営業の成果ともいえるのではないでしょうか。

   つまり仕事・プライベートを問わずに、営業を行うことは給料やビールなどの成果物を獲得できることだといえるからです。この連載を通じて「営業とはなにか?」について感じていただければ幸いです。今回はオープンソースソフトウェア黎明期の営業現場について紹介します。


オープンソース黎明期の営業現場

   当社は2002年にわずか数名のメンバーにより設立されました。設立当時はメンバーの一人一人が営業から経理事務、広報業務、開発などマルチに活動することを求められていました。

   営業に関していえば、設立当初は信用力が低くて規模も小さく、若い企業の営業担当者の話を聞いてくれる企業は皆無に近い状況でした。ただそのような状況の中でも、小規模な案件であっても確実にこなして、その実績を元に地道な営業活動を行っていました。そんな中、会社宛てにある一本の電話がかかってきました。


突然の問い合わせ

   「A製鉄のHと申します。御社のソリューションについて一度お話を伺いたいのですが、当社までお越しいただくことは可能でしょうか?」との突然の問い合わせであり、当社の紹介記事を見て電話をかけてきたようです。

   何度か各種媒体に記事を掲載してきましたが、それまであまり効果がありませんでしたので、この問い合わせには正直嬉しいものがありました。またA製鉄といえば、上場こそしてはいなかったものの、国内中堅の鉄鋼メーカであり、それなりの期待もできましたので、問い合わせをもらった翌週の早々にA製鉄を訪問しました。

   受付でH氏の名前を告げると、「部長のHですね。お越しいただくのをお待ちしておりました」と受付嬢がにこやかな応対をしてくれました。役職からしてH部長は決定権を持っている人だと思われ、速いスピードの商談になるのではないかと期待が膨らみました。


顧客との接触

   部屋に通されると、「どうもA製鉄のHです」とインテリな風貌が眩しい感じの男性が出迎えてくれました。挨拶もそこそこに今日の用件をたずねてみると、「いやぁ。実はねぇ、DBのライセンス料がかさんじゃって。なんとか安くならないかなぁと思って御社に声をかけたんですよ」という返事でした。

   当社は商用ではなくオープンソースのDBをメインに扱っており、つい先日そのことがインターネットや新聞の記事に「オープンソースのDBのライセンス料が無料」ということともに掲載されたため、そのことから今回の話が発生したのだと思いました。この記事がでた当時はLinuxこそ普及していたものの、オープンソースのDBはまだまだこれからといった状況であり、そのようなの中で当社は先駆的な存在でした。

   まずはA製鉄の使用システムの状況とDBの構成などを聞き、次回訪問時に提案・見積りを提出することになりましたので、早速ヒアリング内容を元に技術者との社内ミーティングを行いました。先に述べた通り、当時の当社が扱う案件としては比較的大規模の案件だったので、ほぼ全社員で心踊りながらミーティングをした覚えがあります。

   ミーティングの結果、「DBの入れ替えにあたり、データ移行および既存アプリケーションとの連携にそれなりの工数がかかります。ただ、現在商用のDBにかけている金額と比較しますと、1年後には資金の回収がはかれるかと思います」と技術担当者より最終回答がありました。

   ROI(注)の観点からみると、1年で資金の回収がはかれれば合理性は高く、「これは約定の可能性が高いのでは…」とH部長の姿が思い浮かびました。また、当時の当社の状況からすればかなり工数の大きい案件であり、約定されれば今までの地道な営業成果がいよいよ花開くのかとの期待できました。

※注: ROI(Return On Investment)とは投資した資本に対して、そこから得られる利益の割合を%で表したもの。コンピュータ・システム(ハードウェアやソフトウェア)を刷新したり、追加導入したりする場合などに、そこからどの程度のメリットや利益などが得られるのかを客観的に表すための指標として使われることが多い。
   ただ、気になったことも1つだけありました。それは、H部長が構築費用もほとんどかからずにDBの入れ替えだけですべてが完結すると思い込んでいる節があったことです。後々明らかになっていくことですが、H部長は数ヶ月前に財務担当から情報システム部長に就任したばかりでした。ITについては素人でしたので、これが後々この商談をこじらせていくこととなりました。

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株式会社ビーブレイクシステムズ 高橋 明
著者プロフィール
株式会社ビーブレイクシステムズ  高橋 明
早稲田大学商学部卒業。大学卒業後日興コーディアル証券にてリテール、法人営業を行う。その後ビーブレイクシステムズの設立に参画し、現在に至る。専門は会計システムに関するコンサルティングセールス。


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第1回:オープンソース黎明期の営業現場
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