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事例に学ぶ、戦略ビジョン・リーダーシップ・社員の力
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最終回の今回は、実際にITソリューションの提案から導入まで筆者が携わった実例を紹介する。本連載のテーマでもある、戦略ビジョン・リーダーシップ・社員の力、というものの重要性を改めて認識いただけると思う。
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プロジェクト収支管理システムを導入 - 某急成長デザイン企業にみる社員力
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「朝も夜も、コストも利益もなく、よいものをつくるのがデザインの仕事」-デザイン業界には今もこのような不文律がある。
ここで紹介するのは、卓越したWebデザイン力で市場の圧倒的な支持を得て急成長されてきたベンチャー企業の事例だ。当然、同業の類にもれず、発注書・契約書の管理、案件ごとの予算と実績の管理などは属人的に管理されていることが多く、経営管理フローも十分に整備されていない状態であった。
しかし、自ら「このままでは企業としてさらに上のステージへ行けない」と強い危機感を持ち、弊社のプロジェクト収支管理ソリューションを導入することを決定する。
同社では自由かつ独創的な社風は残しつつも、プロジェクトごとの売上・原価の予実績をタイムリーに集計・分析することで、戦略的な意思決定に役立てようとしていた。
元々は数年後の株式公開の可能性も見越し、経営陣で検討を開始したのだが、最終的には、現場の社員の方々からの「自分達の仕事の成果を公正に評価してもらいたい」という前向きな「思い」により、新システム導入が決定された。
従来はプロジェクトごとの収支管理がブラックボックスになってしまっていたことで、「徹夜作業で頑張っていれば努力している」「売上額が大きければよいプロジェクト」といった曖昧な業績評価がなされるリスクがあり、また人事評価の根拠も公正さに欠いていたという。
筆者は、トップからの一方的な押し付けではなく、現場からの自発的なニーズがあるということで、こちらの企業様の案件に大いに可能性を感じた。
正直、プロジェクト収支管理というテーマが本当にWebデザイン業で受け入れられていくのか、最初は不安であった。しかし、導入においてはまさに「第3回:ITで成果を生むための「人材力」とは?」のテーマである、「人材力」を実感することとなる。
導入決定後は、経営陣はほとんど詳細の作業には関与せず、社員の方々が自ら「目的と意義」を共有し、場を設け、自社の業務を如何にパッケージシステムの標準フローにあわせていくか、という業務デザインを進めていった。
通常、このようなソリューション導入において「うちに合う業務フローを書いてください」と完全にベンダー依存のスタンスの企業もある。しかし、今回のケースでは、「標準のフローをいただければ、自分達で考えてフローを設計してみます」と自律的に進められたのには本当に感心させられた。当然、ベンダー側から一方的に押し付けられたフローと自ら考案されたフローでは、その実現性という点で比較にならない。
デザイナーの方々は作業の「工数」を入力するという文化は元々ないため、最初は難色を示されたと聞くが、リーダーが「数値で何かを管理するためのものではない。経営としてサポートが必要なプロジェクトを早期に発見し、社員の皆さんのスキルや仕事の成果を公正に評価し、よりよい企業にしていくためのもの」という説明をされ、受け入れられている。
結果、これまで、繁閑期問わず発生していた外注経費が、プロジェクトごとの採算意識が徹底されたことで、システム導入直後に約5%削減されるなど、確実に利益向上の効果があられはじめているという。
第3回でも書かせていただいた通り、まずは、こうした短期的な「成功体験」を報い、共有することで、「人事評価制度の見直し」というこの先の大きな経営効果につなげていかれる例だと思う。弊社としてもまだまだご支援が足りていないところがあるので、さらなる同社の成長のために支援していく予定だ。
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著者プロフィール
エンプレックス株式会社 藤田 勝利
住友商事、アクセンチュア(当時アンダーセン・コンサルティング)を経て、米国クレアモント大学 P.F ドラッカー経営大学院にてマネジメント論を学ぶ(MBA with Honor)。専攻は経営戦略論ならびにリーダーシップ論。現在は、「経営とITの融合」を目指した多様なソリューションを提供するエンプレックスの事業開発担当 エグゼクティブマネージャーとして、各種新規事業立案、組織コンサルティング、中小・中堅企業向けIT化支援などを展開。大手・中小企業、政府官公庁に対する業務変革、組織変革、企業風土改革、マーケティング戦略立案などのコンサルティング実績多数。 共訳書「最強集団『ホット・グループ』奇跡の法則」(東洋経済新報社刊)
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