TOPシステムトレンド> 仮想化された記憶装置
ITインフラの新しい展望
ITインフラの新しい展望

第3回:iSeriesのシステム・アーキテクチャーに見る仮想化技術
著者:日本アイ・ビー・エム  安井 賢克   2005/11/7
前のページ  1  2  3
仮想化された記憶装置

   iSeriesでは記憶域すべてがメモリーのみで構成されているというと信じられないかもしれません。確かに実際にはメモリーだけで構成されるiSeriesはあり得ず、ハードディスクを必ず装備しています。

   しかしながらアプリケーションから見ると、メモリーやディスク装置は完全に仮想化されており、記憶域のすべては一元的にメモリーと見なされています。この記憶域管理は先に述べたSLICの内部で行われています。iSeriesの2大アーキテクチャーをあげるとするならば、先ほど述べたTIMIと、単一レベル記憶またはSLS(Single Level Storage)と呼ばれる記憶域管理の仕組みでしょう。

SLSの仕組み
図3:SLSの仕組み

   SLSは多くのコンピューター・システムで実現されている仮想記憶の考え方をより進化させたものだと考えることができます。仮想記憶を一言で説明するならば、ハードディスクの一部を使いながら、実際には小さなサイズのメモリーをユーザーに対してより大きく見せかける技術だということです。

   ここでもメモリーとディスクの関係は残りますが、SLSでは論理的にはハードディスクもすべてメモリー空間の一部として見なされます。そして広大なメモリー空間はすべて4KBのページと呼ばれる単位に区切られ管理されています。

   SLSのメリットとは、人手をかけずに、システムが自律的にメモリーやハードディスクに関するパフォーマンスをチューニングしてくれる点にあります。記憶域を仮想化することにより、オートノミック機能を提供してくれるのです。

   例えばシステムがハードディスク上にあるアプリケーションのプログラムを読み込むケースを考えてみましょう。まずシステムが、プログラムが格納されている4KBの該当ページをハードディスクからメモリーに一旦移動します。読み込まれたページは削除されない限り、そのままメモリー内に常駐します。そして次にシステムが同じプログラムを読み出す際には、ディスクからではなくメモリーにアクセスするだけで済みます。

   すべてのメモリーはディスク・アクセスのためのキャッシュとして機能します。ミリ秒単位の時間を要するディスク・アクセスに比べて、その100万分の1のナノ秒単位のメモリー・アクセスの方がパフォーマンス上、圧倒的に有利となります。

   メモリーサイズは有限なのであらゆるページをメモリー上に常駐させることはできません。新たなページをメモリーに移動する際に、アクセスされなくなったページはいずれハードディスクに書き戻される必要があります。

   ここで書き戻される先のディスク装置は、システムがパフォーマンス上最適になるように自動的に選択します。システムが常時、各ハードディスクの使用率をモニターしており、最も余裕のあるディスクを見つけ出してページを書き込みます。

   ここでモニターすべきハードディスクの使用率は、容量またはディスクアームのビジー率のどちらであっても構いません。これにより複数あるハードディスクの中で特定の1台にアクセスが集中して、結果的にシステム全体のパフォーマンスが悪化する事態を避けることができます。

   ここで注意いただきたいのは、読み書きの単位はファイル(iSeriesの場合はオブジェクトと呼ばれます)ではなくて、ページであるということです。すなわち大きなファイルがあったとしても、必ずしもハードディスク上の連続領域に格納されるとは限りません。特定のファイルが4KBに区切られて、それが複数のハードディスクに分散配置される、といったことも十分に考えられます。

   例えばあるファイルがあるアプリケーションにおいて非常に重要であり、トランザクション処理されるためには必ず参照する必要があるとしましょう。もしこのファイル全体が1台のハードディスクに格納されていたら、このディスクに対してアクセスが集中するとことなり、場合によってはそれがアプリケーションのパフォーマンスに悪影響をおよぼしてしまうかもしれません。iSeriesではこのファイルは複数のハードディスクに分散配置されるので、特定のハードディスクへのアクセスの集中を避けることができます。


iSeriesイノベーション宣言

   ここまででiSeriesが誕生以来一貫してサポートしてきた仮想化技術と、将来を先取りして実現した仮想化技術の両方を概観してきました。一言で仮想化といっても、アーキテクチャーとして変わらないものと、ITインフラの今後のトレンドとなる新旧の技術が、1つのシステム上に同居していることがおわかりいただけたのではないかと思います。

   今年はじめにIBMはイノベーション宣言として、iSeriesへの投資を継続することをコミットしました。アプリケーションの品揃えを拡充し、ビジネス・パートナーとの協業をより強化することもさることながら、製品としてより一層の機能強化を行ってゆくことを対外的に約束するものです。

   従来から機能強化ポイントのキーワードは5つあるといわれていました。最新テクノロジーの取り込み、業界標準プロトコルのサポートによるオープン性の追求、必要とされるあらゆる機能を備えた統合性、システムとしての自律性(オートノミック)、そして仮想化の推進です。

   仮想化の狙いとする点は背後にある複雑さをユーザーから隠蔽し、システムとして使いやすいものにすることであり、昔も今もiSeriesの基本的な設計思想の中に脈々と流れています。他に類のない非常にユニークなサーバーではありますが、過去の実績や現在の機能のみならず、将来への成長の可能性をも感じることができるでしょう。

前のページ  1  2  3


日本アイ・ビー・エム株式会社 安井賢克
著者プロフィール
日本アイ・ビー・エム株式会社  安井賢克
日本アイ・ビー・エム株式会社 iSeries事業部・製品企画所属
1980年入社。1984〜1986年に米国カリフォルニア州サンノゼ、1999年〜2000年にiSeries開発部門のある同ミネソタ州ロチェスター駐在の後、2003年より現職。iSeries関連のソフトウェア製品企画を担当。


INDEX
第3回:iSeriesのシステム・アーキテクチャーに見る仮想化技術
  IBM Systems Agenda
  仮想化されたマシン
仮想化された記憶装置