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プロジェクト管理基盤
「プロジェクト管理基盤」整備のススメ〜対症療法に陥らないために〜

第4回:個人のスキルの問題をどう解決するか

著者:ウルシステムズ  本園 敏文   2007/8/30
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転嫁策を考える

   リスクマネジメントにおける転嫁策とは、リスクが現実化した場合の結果と責任を、第三者に転嫁することをいいます。

   例えとしてよく用いられるのが保険の考え方です。日々保険料を支払うことによって、いざリスクが現実化した場合に発生する損失から身を守ろうとするものです。

   しかしプロジェクトに保険はありません。ここでの転嫁策とは、そうでなければベンダーあるいはプロジェクトマネージャーが一身に背負うはずだった責任を分散させることによって、新たな解決策を模索していこうとするものです。それでは転嫁策の具体例についてみていきましょう。

転嫁策その1「外注か、それともスタートの延期か」

   チームに不足しているのが「狭い領域のスペシャリスト」であれば、「時間を稼ぐ」策も功を奏するかもしれません。しかし基盤アーキテクチャの設計SEやチームの技術リーダーなど、「最初から必要」とされる人材が不足していることも稀ではありません。

   そのような場合でも、まずは「時間を稼ぐ」戦略が使えないかどうかを検討することが必要です。プロジェクトの開始当初は、タスクがカバーする作業範囲も曖昧であり、タスク間の依存関係はさらに曖昧であることが多いものです。「本当にその時期にそのアウトプットが必要なのか」が明確でない場合が多いのです。

   それでもやはり最初から人材が必要な場合はどうしたらよいでのしょうか。これは、「出かけようとしたら自動車が故障しており、身内で修理できる人は外出中」といった状況と同じようなものです。すなわち有効な対策が非常に難しい状況です。

   ここで問題を解決してくれるような魔法の杖を望んではいけません。選択肢は限られています。すぐに出かけるために業者を呼んで修理してもらうか、または出発を遅らせて修理できる人が外出から帰ってくるのを待つしかありません。

   ここで必要とされるのは、どちらの選択肢を取るのかについての正確な判断です。おそらくプロジェクトマネージャーの権限を超えるような政治的な判断も必要になってくるかもしれません。マネージャーは自分に何が許されているのか、何が許されていないのかを自問した上で、任せるべき判断はしかるべき人にきっちりと任せることが重要です。

   結論をいってしまうと、選択肢は基本的には2つしかありません。外注で人材を確保するか、あるいはスタート時期の延期を交渉するか、のいずれかです。

   ただし、プロジェクトも様々でひとくくりにはできません。本当に重要なプロジェクトであれば行動は慎重であるべきあり、運を天に任せて何らかの策を弄してみたり、あるいは「なんとかなる」とばかりにとりあえずスタートを切ってしまうことは避けなければなりません。

   しかしケースによっては、多少の冒険が許されるプロジェクトが存在することも事実です。「余裕」があるならば、危険を承知であえてスタートを切ってしまうのも、完全に間違いな戦略とはいえません。


転嫁策その2「顧客との問題の共有」

   前項で、最初から人材が必要な場合は、外注で人材を確保するか、スタート時期の延期を交渉するか、のいずれかしか選択肢はないと書きました。それなのに、まだ対策として続きがあるのでしょうか。

   実は前項には隠れた前提が存在しています。それは「すべての要求に自社が対応しなければならない」というものです。顧客の要求が先にあり、それに対して自社が手をあげるのだからそれは当然の前提のように思えます。自社ができると判断したから手をあげるのであって、手をあげたものに対して全面的に責任を負うのは当然です。

   しかし世の中はそう単純ではありません。契約が本締結に至る前でも、本格的な作業に入ることはよくあることです。契約がなされた後でも、双方の合意があれば柔軟な解釈が可能になるのも現実です。つまりプロジェクトで最も重要な点は、最終的な顧客の納得感であり、満足感にあるということです。

   極論をいってしまえば、顧客が最終的に本当に納得し満足するのであれば、普段なら禁じ手とされるような方法でも選択肢の1つとして残しておくという考え方で行動することです(ただし契約が厳格な公共系の事業の場合は「納得感」よりも「契約の文言」が重要になるので注意が必要です)。

   つまり、自社ができることは責任をもって引き受け、自社ができないことは早期に正直に顧客に相談するということです。もちろん相談するだけではNGです。具体的な代替案、しかもより有利な代替案をいくつか提示しなければならないでしょう。

   代替案の中には優れた外注への依頼や、スコープ変更、アーキテクチャ変更といった「深刻」な項目が入ってくるかもしれません。また、自社が遂行した場合のプロジェクトのリスクを顧客の立場で説明しなければならないかもしれません。顧客内部での稟議を通すための説明資料やデータを提供する必要もあるでしょう。誰が聞いても納得するような、説得力のあるロジックを準備しなければなりません。

   そして、そのロジックに信頼性を付与する真摯な作業姿勢が重要です。もちろん、付け焼き刃の「真摯な作業姿勢」には何の意味もありません。これはプロジェクト開始時点からずっと身につけていなければならないものです。それは、本当に顧客のニーズを考えて全力を尽くすということです。真面目にプロジェクトに取り組んでいる者のみが取りうる戦略といえるでしょう。

顧客の最終的な満足のために、あらゆる方法を考える
図2:顧客の最終的な満足のために、あらゆる方法を考える

   最初に明確な「約束」という形でプロジェクトがスタートしたのであれば、以上のアクションをとってもまだまだ状況は厳しいかもしれません。しかし顧客にとっても、一番重要なのはプロジェクトの成功にあるはずです。このまま進めばプロジェクトの崩壊が目にみえるようであれば、以上のような策も、選択肢の1つとして考えるべきです。

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ウルシステムズ株式会社 本園 敏文
著者プロフィール
ウルシステムズ株式会社  本園 敏文
シニアコンサルタント。既存のプロジェクト管理手法と知識体系をベースに、曖昧・不確実な世界から目に見える結果を引き出すための、トータルなナレッジの確立および現場へのフィードバックが目下の関心事。


INDEX
第4回:個人のスキルの問題をどう解決するか
  「軽減」「転嫁」「受容」で考える「スキルを持つ個人」の問題
転嫁策を考える
  受容策を考える