TOPプロジェクト管理> 「軽減」「転嫁」「受容」で考える「スキルを持つ個人」の問題
プロジェクト管理基盤
「プロジェクト管理基盤」整備のススメ〜対症療法に陥らないために〜

第4回:個人のスキルの問題をどう解決するか

著者:ウルシステムズ  本園 敏文   2007/8/30
1   2  3  次のページ
「軽減」「転嫁」「受容」で考える「スキルを持つ個人」の問題

   「第3回:顧客と上司を説得する方法」では、リスクマネジメントにおける4つの対応戦略の1つである「回避策」の観点から、「スキルを持つ個人」の問題を考えてみました。最終回の今回は、残り3つの対応戦略、すなわち「軽減」「転嫁」「受容」の観点から、この問題への対応方法を検討していきます。

軽減策を考える

   リスクマネジメントの最初の対応戦略である回避策では、リスクそのものを発生させないというスタンスで問題への対応を考えました。具体的には、顧客や上司に積極的にアプローチすることによって、「必要なスキルを持ったメンバーがいない」という前提条件そのものを揺さぶってみました。

   しかし、それでも状況が変わらない場合には、いよいよ本当にスキル不足のメンバーを率いてプロジェクトをまわしていくことを考えなければなりません。

   今回紹介する軽減策では、リスクの発生やその現実化自体を避けることは考えません。その代わりに、いざリスクが現実化してしまった場合のプロジェクトへの影響を、受容可能なレベルまで小さくすることを考えます。

   これは、厳しい現実は変えられない現実として受け止めた上で、プロジェクトへの影響を極力最小化するための策を打つことによって、難局を乗り切ろうとするものです。

   もちろんモチベーション向上策や適切なチームビルディングなどの施策を通じて、ある程度は個人のスキル不足をカバーすることはできます。今回はこうした間接的な解決策ではなく、ストレートにこの問題を考えていくことにします。


軽減策その1「まずは常識的な手段を考える」

   まずリスクの軽減策として、メンバーのトレーニングを考えます。これは通常のプロジェクトで一般的に実施されている策であり、OJT(On-the-Job Training)などがその代表的なものです。OJTは、現場で徐々にスキルを向上させていくことによって、当初のスキルギャップを埋めていこうとする試みです。

   しかしこうした対応策は、顧客への説明用としては説得力のあるものですが、実際のプロジェクトでは過大な期待はできません。すでにポテンシャルがわかっているメンバーであればOJTは計算できる策といえるかもしれませんが、そうでないメンバーの場合はギャンブルになるかもしれません。

   実際にOJTを実施する場合でも、その結果が予測できないものであれば問題解決の「策」と呼ぶことはできないでしょう。もちろんこうしたトレーニングは重要なものであり、その試み自体には何の問題もありません。しかし、そこに根拠のない楽観主義やギャンブル的な発想が入りこむことこそが危険なのです。

   OJTをギャンブルにしないためには、OJTであっても一般の研修のようにきちんとした計画を立てて実施することが重要です。達成目標と達成基準を定め、OJTで習得しきれなかった分については、別途コストをかけてでも(そのコストを会社が負担するのか、それとも自己学習という形で個人が負担するのかはさておき)習得するような計画を立てることが重要です。計画も立てずにOJTだけに頼ってとりあえずプロジェクトをスタートさせてしまうのは危険です。

   計画を立てる際には「できる限り具体的」にしましょう。目標として単に「言語の習得」や「環境ツールの習得」といったキーワードを並べただけでは、結局何が達成されたのかわからないままに時間だけが過ぎていくことになりかねません。プロジェクトの必要性があって習得するスキルなので、「○○ができるようになること」といった具体的かつ定量的な目標を掲げるのは難しくはないはずです。

   また、最終目標までにいくつかのマイルストーンを設定するのも重要なことです。各マイルストーンにおける目標と、達成できなかった場合のリカバリ策をあらかじめ設定しておきます。特にリカバリ策は事前に検討しておくことが大切です。こうした準備がなければ、いざ遅延した場合でも「頑張って追いつきます」の一言で「対策」が終わってしまうことにもなりかねません。


軽減策その2「時間を稼ぐ」

   トレーニングという策が有効に働くことも確かにありますが、一般的にスキルというものは一朝一夕に獲得できるものではありません。特に、プロジェクト期間中に現場作業と並行してトレーニングを受けたからといって、そう易々と身につくものではありません。

   スキルギャップの問題を、トレーニングによるスキル向上で解決しようとする策には限界があるといえるでしょう。しかもその限界はかなり低い位置にあります。ギャップが大きな場合はトレーニングでは間に合いません。やはりどうしてもスキルのある人間を引っ張ってこなければ、根本的な問題解決にはなりません。

   では、どうしたらよいのでしょうか。顧客を揺さぶりました、上司も揺さぶりました、それでも問題は依然として存在します。

   ここで考えるべきことは、スキル不足だからといって、そのスキルがプロジェクトの期間中、常に必要であることは滅多にないという事実です。一般的なプロジェクトの場合、高いスキルが要求されているのは、一部のタスクや一部の役割に限られています。プロジェクト開始当初にそのスキルが不足していても、「必要な時期」にその人材が確保されていれば問題はないはずです。

   要するに、最初からメンバーを揃えるのは無理だったとしても、引き続き上司を揺さぶり続けることには意味があるということです。時間が経てばお望みの人材も調達できるようになるかもしれません。1ヶ月後か、2ヶ月後か、大きなプロジェクトではまだ時間に余裕があるかもしれません。必要となる時期に「スキルを持つ個人」を調達できるように働きかけをしていくのです。

そのスキルはいつから必要になるのか
図1:そのスキルはいつから必要になるのか

   ここで重要な点は、その調達が可能になる時期に合わせて、あるいはその時期を想定して、プロジェクトを制御・調整していくということです。制御・調整はチーム内のスケジュールだけではありません。重要なマイルストーンを動かそうとする場合には、おそらく顧客や第三者ベンダーとの交渉も必要になるでしょう。交渉力や政治力を発揮して、時間を稼いで「スキルを持つ個人」を調達できる時期を待つのです。

1   2  3  次のページ


ウルシステムズ株式会社 本園 敏文
著者プロフィール
ウルシステムズ株式会社  本園 敏文
シニアコンサルタント。既存のプロジェクト管理手法と知識体系をベースに、曖昧・不確実な世界から目に見える結果を引き出すための、トータルなナレッジの確立および現場へのフィードバックが目下の関心事。


INDEX
第4回:個人のスキルの問題をどう解決するか
「軽減」「転嫁」「受容」で考える「スキルを持つ個人」の問題
  転嫁策を考える
  受容策を考える