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第2回:リスクを打破するシステムエンジニアの資質

著者:日本総研ソリューションズ  森 陽一   2007/4/25
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システム完成後のリスク

   情報システムは開発完了後、約10年〜15年の長い期間のシステム維持と運用フェーズがはじまる。システム改訂を繰り返しながら、システムを維持・拡大していく運用フェーズの期間は、開発初期の構想段階から開発完了までの期間と比べて圧倒的に長い。

   この長いシステム維持と運用フェーズのことを初期の開発段階から考慮しておかないと、本番カットオーバ後に、システム運用で思わぬ「追加コスト」や運用ミスに起因する「システム障害の発生リスク」を背負うことになってしまう。

   このため、システム運用を行う人の立場に立った運用機能を組み込むような配慮が必要である。例えば、障害を伝えるオペレータへの通知メッセージにしても、注意を促す意味での「Warningメッセージ」やオペレータヘの対応を促す「Cautionメッセージ」、致命的なエラーを知らせる「Fatalメッセージ」などのメッセージ体系を事前に組み立て、運用設計を行うべきである。単にメッセージを通知しても、それがどういう意味で事態の重大さのレベルが示されなければ、システム運用者は現場で1つも対応策を打てない。

   また、システム改訂作業に当たってはシステムの構想段階に設定した開発思想を崩さずに維持できるチェック体制(ガバナンス体制)とその要員確保を行っておかないと、どんなに優れた思想であってもすぐに崩れてしまう。「システムの根幹となる思想を理解し、それ自身を成長させていくことが重要なのだ」と考える集団でないといけない。

   長い期間、システムに愛着のない人がシステムの維持改訂作業や運用作業に携わっていても、システムを良くしようとする気持ちが働かない。これらを肝に銘じて開発体制のプロデュースを行うべきである。つまり、自分が開発したシステムのファンを周囲に作ることがとても大切であり、その力こそがシステムの生命を伸ばすものだと筆者は考える。

システムエンジニアに求められる資質

   これまでシステム開発プロジェクトの組成段階に潜むリスクについて紹介した。これらのリスクを打破し、情報システムの開発プロジェクトを成功に導く要因は、結局それに携わるシステムエンジニアの資質に依存してしまうところが大きい。

   この資質について筆者は、実際の開発プロジェクトを通して、能力開発を行っていきたいと常日頃考えている。本連載の最後に筆者が考えるシステムエンジニアの資質を列挙しておく。

  1. ロマンをもたなければならない。ITはロマン(夢)を実現できる道具であるから
  2. 顧客を説得できるプレゼン能力がなければならない
  3. 柔軟な思考能力を持って、人の話す事を理解できる耳を持たなければならない
  4. 変化する社会ニーズとそれと向かい合うIT環境の変化を捉え、今あるものを改革する向上心をもたなければならない
  5. YES/NOを判断できる能力を磨かなければならない
  6. コーディネイト力を持って、顧客が納得できる解(ソリューション力)を提示できなければならない
  7. 他人の設計したプロダクトを用いてシステム開発を行う場合、「性悪説」の立場でそのプロダクトと向き合う気持ちが必要である。「性善説」では問題の根が最後にでる
  8. トップダウン思考で問題を整理し、論理的思考能力を持って人に説明できなければならない。ボトムアップ思考だけでは時間の壁をクリアできない状況があるからである
  9. 自身を取り巻く周囲の環境に目配りできる能力と周囲を納得させるだけの強い求心力が求められる
  10. 現場に降りる忍耐力を持ち、チームとしての強さと弱さを理解して周囲の実力の限界を認識しておくことが大事である

表1:システムエンジニアに求められる10ヶ条

   次回は、システム開発時の考慮不足によって発生する「セキュリティのリスク」について解説する。

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株式会社日本総研ソリューションズ 森 陽一
著者プロフィール
株式会社日本総研ソリューションズ  森 陽一
79年 静岡大学工学部情報工学科卒業。
82年 株式会社日本総合研究所の前身、日本情報サービス株式会社に入社。
90年 技術士(情報工学部門)及びシステム監査技術者資格を取得。
82年〜04年カードシステムに関する企画・開発業務に従事。
04年 株式会社日本総合研究所技術本部本部長に着任。
06年 株式会社日本総合研究所執行役員就任を経て、株式会社日本総研ソリューションズ執行役員に就任。


INDEX
第2回:リスクを打破するシステムエンジニアの資質
  システム開発プロジェクトの組成段階に潜むリスク
  開発プロジェクトのプロデュースリスクの存在
システム完成後のリスク