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CMMI
ソフトウェアプロセスレベルを向上させるCMMI活用術 〜 ソフトウェア開発の品格

第4回:オフショア企業にとってのCMMI
著者:日本コンピューター・システム   新保 康夫
日本和光コンサルティング  久野 茂
   2006/5/25
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「定義された」と「まかせた」は大違い 〜 契約社会

   日本企業の中で、海外のソフトウェア開発企業へオフショア開発でシステム開発を発注したことについて「いわれたことしかしない」「書かれたことしかしない」などの不満をいう人たちがいます。また、「この部分はそちらにまかせます」といいながら、できあがったシステムを検証して「何を勝手につくっているのだ」と文句をいう人たちもいます。

   でも、ちょっと考えてみてください。「定義された」という言葉は、「書かれたこと/言われたこと」をきちんと守っているだけなのです。「まかせる」ということは、すべてをまかせて、自由に作成してくださいということなのです。

   この点について、日本人は日本独特の社会概念で考えてしまいますが、あくまでそれは日本という狭い世界のローカルルールだということです。

   「書かれたことしかしない」ということは実は非常に大切なことなのです。その人の役割は何か/何をしてよいか/何が成果物かなどを規定することにより、同じ成果を期待することができるのです。

   プロジェクトには多くのメンバーが参加します。その人たちがすべてが優秀な技術者とは限りません。全員がスーパーマンでもないし、全員が同じスキルを持っているわけでもありません。また、プロジェクトにおいても1人1人求める役割やスキルはまったく同じではありません。それを確かな形で動いてもらうには行動がきっちりと書かれている、つまり定義していることが大切なのです。

   私たち日本人は「定義された」というとすべてが網羅されており、どんな場合でもその通りであればうまくいくものというふうに考えてしまいます。しかしメンバー全員がプロジェクトを行う上でやるべきことが定義されている、つまりスタートラインがあるのとないのではまったく違ったものになります。

   この点を十分理解しておかないと、「CMMIレベル3の企業だからどのような開発もできるだろう」という大きな錯覚を招くことになってしまいます。そうではなく、逆に「書かれたことしかできない」と考えておく方が無難でしょう。オフショア開発を行う上で海外は契約社会であるということを十分認識すれば、認識の違いによる問題は起こらないと思います。

「定義された」ギャップ
図2:「定義された」ギャップ


ソフトウェア開発の品格

   最後にソフトウェア開発の品格についてまとめたいと思います。「品質」が「品物の性質を表す」ということに対して、「品格」は「物のよしあし」を表わします(出典:広辞苑)。

   ソフトウェア開発は発注する企業、受注する企業双方にとって単なる儲け話ではありません。CMMIでは利害関係者の話がよくでてきますが、1つのソフトウェア製品をとって見ても、それを計画した人・使う人・保守する人が関与します。また高齢者や障害者の方が想定外で使ったりすることもあります。

   ソフトウェア開発は、個人の満足が目的ではなく、様々な利害関係者(実行の成果に関して何らかの形で説明責任があるか、または成果の影響を受けるグループあるいは個人のこと)の満足が必要です。

   ところが、前回の社長の話のように「問題があれば会社をつぶせばいい」という発想を持つとどうなるでしょうか。「自分だけよければよい」という前提では信頼あるビジネスはできません。ソフトウェア開発の品格はプロジェクトを実施する個人の品格でもあります。

   「品格がない」ということは、故意に手抜きする場合もあれば、前回子供の下駄箱の話のように1人1人がやるべきことを知らない場合でも結果は同じです。そのためには、「靴を綺麗に揃えた写真」のような道筋(プロセス)が必要になるわけです。ソフトウェア開発のプロセスが確立し、やるべきことをきちんとやれれば、製品や会社の信頼という形で現れます。

   CMMIではそれを「プロセスを確立する」といいます。CMMIではプロセスが確立され実施される道筋をさらに改善や成熟度という形でわかりやすく整理してくれています。CMMIでは、例えば品質については「製品とプロセスの品質保証」プロセスで具体的にゴール(目標)やプラクティス(実例)として道筋が立てられています。

   実はCMMIでは、品格については何も触れられてはいません。しかし品質や生産性、あるいは納期厳守のプロセスを確立し改善する中で、「手抜きをしない」「偽装をしない」「法令を遵守する」といった内部統制も自然と確立されると思います。

   「ソフトウェア開発の品格」は、利害関係者への配慮する行動規準や内部統制機能を高める習慣を企業文化として実行することであり、CMMIのプロセス改善を継続する中で各社が自然と身に着けていくものです。

   CMMIはソフトウェア開発にかかわる利害関係者に配慮したプロセスを確立し改善する仕組みとしてよくできています。この改善を継続することは、すなわち「ソフトウェア開発の品格」を向上することだと思います。

   単にCMMIの成熟度を上げることをだけに奮い起たせたとしても、「品格」を持つことはできません。しかし、「品格」を持つことはCMMIの成熟度は高いレベルにあるといえます。CMMIのプロセスを確立して継続的に改善すると同時に、ソフトウェア技術者として/プロジェクトとして/組織として/企業としてのあり方、振舞い方も確立し、継続的に改善することが「ソフトウェア開発の品格」を持つということになるといえるでしょう。

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日本コンピューター・システム株式会社  新保 康夫
著者プロフィール
日本コンピューター・システム株式会社
新保 康夫(しんぼ やすを)

本部企画室 コンサルタント、ITコーディネータ/ITCインストラクタ、システム監査技術者、ISMS主任審査員資格。
1975年 日本コンピューター・システムに入社。システム開発に従事し、プロジェクトマネージャを経て現在、コンサルタント業務に従事する。コンポーネントベース開発やアジャイル開発にも関与する。

日本和光コンサルティング(株) 久野 茂
日本和光コンサルティング(株)
久野 茂(くの しげる)

日本和光コンサルティング(株)代表取締役副社長、ITコーディネータ。日本電気(株)、(株)日本総合研究所に勤務。現在日本和光コンサルティング(株)代表取締役副社長。
1978年徳島大学工学研究科修了、1998年電気通信大学大学院IS研究科博士課程単位取得満期退学。著書に「中国オフショア開発ガイド(共著)」コンピュータエージ社、他 多数。

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