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CMMI
ソフトウェアプロセスレベルを向上させるCMMI活用術 〜 ソフトウェア開発の品格

第2回:プロジェクト管理にCMMIを活かす 〜 PMBOKとの比較
著者:日本コンピューター・システム   新保 康夫
日本和光コンサルティング  久野 茂
   2006/4/26
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プロジェクトの品格

   ここまでの説明から、CMMI成熟度レベル2にプロジェクト管理が深く関わっていることが理解できたと思います。それを踏まえてCMMIレベル2のゴールやプラクティスを見ながら、プロジェクトの品格について考えてみることにしましょう。
要件は管理できているか

   ここで再度、CMMIの要件管理についてみてみましょう。

固有ゴール 固有プラクティス
要件管理
要件を理解する
要件に対するコミットメントを得る
要件変更を管理する
要件に対する双方向のトレーサビリティを保つ
要件とプロジェクト作業との間の矛盾を見分ける

表5:要件管理の固有ゴールと固有プラクティス

   表5では要件管理においては当然ともいえる項目がプラクティスとしてあげられていますが、実際のプロジェクトにおいてすべてを満足させているものは少ないのではないでしょうか。「要件に対するトレーサビリティ」や「要件とプロジェクト作業の矛盾」について考慮されているプロジェクトはどの程度あるのか疑問です。

   プロジェクトに品格を求めるのであれば、「要件に対するトレーサビリティ」や「要件とプロジェクト作業の矛盾」は必須のプラクティスになります。トレーサビリティを例にとると、「1つの要件がどの機能に/どのプログラムに/どのテスト項目に」関連しているかがわかっていないで、どのようにして要件が満足したシステムが構築できるといえるでしょうか。また1つのプログラムがどの要件のためにあるのかわからないのに、そのプログラムが必要だとはいえません。

   ましてや、基本といえる「要件の理解」や「要件変更管理」ができていないプロジェクトが成功するとは到底考えられません。まずは、要件管理をきちんと行うことがプロジェクトの基本となります。つまりCMMIレベル2は、プロジェクトの基本から測れる物差しなのです。


プロジェクトをアセスメントできるプラクティス

   CMMI成熟度レベル2の固有ゴールや固有プラクティスは、プロジェクト/プロジェクト管理が適切に行われているかをチェックする項目です。例えばプロジェクト計画策定やプロジェクトの監視と制御については、表6のような固有ゴールとプラクティスがあります。

プロセス 固有ゴール 固有プラクティス
プロジェクト
計画策定
見積もりを立てる プロジェクトの範囲を見積もる
作業成果物とタスクの属性の見積もりを立てる
プロジェクトライフサイクルを定義する
工数と費用の見積もりを決定する
プロジェクト計画を策
定する
予算とスケジュールを立てる
プロジェクトリスクを見分ける
プロジェクトに関わるデータの管理を計画する
プロジェクトに関わるリソースの計画をする
プロジェクトに必要な知識とスキルを計画する
利害関係者の関与を計画する
プロジェクト計画を立てる
計画に対するコミット
メントを得る
プロジェクトに影響する計画をレビューする
作業レベルとリソースレベルの過不足を解消する
計画コミットメントを得る
プロジェクト
の監視と制御
計画に照らしてプロ
ジェクトを監視する
プロジェクト計画策定パラメータを監視する
コミットメントを監視する
プロジェクトリスクを監視する
プロジェクトに関わるデータ管理を監視する
利害関係者の関与を監視する
進捗レビューを行う
マイルストーンレビューを行う
是正処置を終結まで
管理する
課題を分析する
是正処置をとる
是正処置を管理する

表6:CMMIの固有ゴールと固有プラクティス例

   これらゴールやプラクティスは、プロジェクト管理を行う上での個々のステップになります。このことはプロジェクトが計画され、それに基づいて管理されているかをチェックするアセスメントといえます。

   しかし、表6の用語で自社のプロジェクトをアセスメントできるわけではなく、自社で日頃使われている用語に統一する必要があります。例えば「プロジェクト計画」を自社で「開発計画」と呼んでいる場合は、「プロジェクト計画策定」を「開発計画策定」と変更しなくてはなりません。

   また、CMMIでは個々の固有プラクティスについて詳しい説明が書かれています。この説明が「何をすればよいか」「どのような成果物が必要か」といったヒントや答えを与えてくれます。これは「アセスメントした結果、問題となるプラクティスに対してどのように対処すれば解決できるか」というガイドラインを作成することが可能だということを示しています。

   CMMI成熟度レベル2はプロジェクトを十分アセスメントできる指標であり、プロジェクトを管理できるものだといえます。そしてプロジェクトをアセスメントし、問題を解決していくことがプロジェクトの品格を培っていくものです。

   たかがCMMI成熟度レベル2程度と考えずに、このプロセス領域のゴールやプラクティスを自社のプロジェクトのアセスメントに活かしてみてはどうでしょうか。思ったよりもハードルが高いことを認識されると思います。

   今回はCMMIレベル2を取り上げ、CMMIのプロジェクト管理への活かし方を解説しました。次回は、CMMIを導入することによるメリットとデメリットについて説明することにします。

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日本コンピューター・システム株式会社  新保 康夫
著者プロフィール
日本コンピューター・システム株式会社
新保 康夫(しんぼ やすを)

本部企画室 コンサルタント、ITコーディネータ/ITCインストラクタ、システム監査技術者、ISMS主任審査員資格。
1975年 日本コンピューター・システムに入社。システム開発に従事し、プロジェクトマネージャを経て現在、コンサルタント業務に従事する。コンポーネントベース開発やアジャイル開発にも関与する。

日本和光コンサルティング(株) 久野 茂
日本和光コンサルティング(株)
久野 茂(くの しげる)

日本和光コンサルティング(株)代表取締役副社長、ITコーディネータ。日本電気(株)、(株)日本総合研究所に勤務。現在日本和光コンサルティング(株)代表取締役副社長。
1978年徳島大学工学研究科修了、1998年電気通信大学大学院IS研究科博士課程単位取得満期退学。著書に「中国オフショア開発ガイド(共著)」コンピュータエージ社、他 多数。

INDEX
第2回:プロジェクト管理にCMMIを活かす 〜 PMBOKとの比較
  プロジェクト管理と関わり合いが深いCMMI成熟度レベル2
  ゴールを満足させるために実施すべきプラクティス
プロジェクトの品格