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第5回:経営にとって最大のリスクとは?

著者:日本総研ソリューションズ  坂井 司   2007/6/26
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経営レベルで差がつくIT非活用のリスク

   本連載も、今回で最終回となる。これまでIT活用にまつわる諸処のリスクと成功に導くキーファクターについて触れてきた。特に、技術論にとどまらず、これを支える「人」や「マネジメント」についてもリスク回避の手立てが必要であることは、各項で触れた通りである。

   ITを安全に活用するには、やれ専門家が必要だの、技術を見通さねばならないだの、なかなか簡単にいかないんですよ、ということが述べられている。こうしたことに取り組んでこなかった組織にとっては、あらためてハードルの高さを感じるのではなかろうか。

   しかし、あえて断言しよう。こうしたことへの抵抗感を覚え、IT活用を潜在的に回避する、これこそが今後の経営にとっての「最大のリスク」である。

忘れ去られた「CALS」の脅威

   「日進月歩」という四字熟語になぞらえ、ITの世界の変革の速さを「分進秒歩」と呼ぶことがある。今回は、この慌しい世界から少し離れて、今から約10年前を振り返ってみよう。

   平成7年、通商産業省(当時)の施策として、「生産・調達・運用支援統合情報システム技術研究組合」が創設された。といっても、この長いタイトルではわからない方が多いかも知れない。英訳すると、「Continuous Acquisition and Life-cycle Support」となる。

   これでもまだピンと来ない方は、次の略語でいかがであろうか。「Commerce At Light Speed」そう、一時期かなり話題となった「CALS」である。

   当時、日本と米国の情報技術の活用レベルの差は「10年」と称されていた。この「CALS」の題材であった米国大手の製造業においては、徹底した情報の再利用が進められており、日本の製造業は、早晩、情報技術活用のレベル差に基づく生産性の違いにより、壊滅的な打撃を受けるであろう、といわれていたほどである。

   こうした背景から、通商産業省という国家のIT戦略を左右する所管省庁において、各企業の人材を招聘し、真摯な取り組みが行われていたのは紛れもない事実である。今でこそ当たり前である「データの発生源から、これをライフサイクルに渡って徹底的に再利用し続ける」というシステムの設計コンセプトは、ある意味、このCALSを1つのトリガーとして国内に根付いてきたといっても過言ではない。

   CALSをあらわす説明文で「Create data once, Use IT many times」という表現が用いられるが、これには電子データは一度発生させたら、それ(it)を情報技術(IT)により徹底的に再利用しよう、との意味も込められている。

   昨今では情報技術に関するハードウェアやソフトウェアの「資源」が容易に入手可能で、ともすればこうした「情報」そのもののライフサイクルにはあまり留意をせず、ある種の「力技」で乗り越えるシステムも散見される。しかし、こうしたことの1つ1つが、組織を支える「生産性」という観点では、着実に彼我の差になっていくのである。

パイロットモデルの
策定
パイロットモデルとして選定した製品やシステムに関して、CALSを適用する業務プロセスを分析し、実証システムを評価・検証する基準を設定する。
エンタープライズインテグレーション(EI)情報モデルについての研究開発 企業間で情報を共用するために必要な統合データベース(IDB)を開発し、製品ライフサイクル全体での統合的なプロジェクト管理技術の研究を行う。
技術ドキュメント電子出版についての技術開発 国際標準(SGML)に基づいて文書データをデジタル化、管理するために必要な共通文書規約と各種ツールを開発し、対話型の電子マニュアル(IETM)などの研究を行う。
設計製造データ共有化についての技術開発 設計製造部門のデータを管理するプロセス・製品データ管理システム(PPDM)の企業間、部門間におけるデータ共用技術の研究を行うとともに、現在、国際標準化が進められているSTEPの応用研究を行う。
CALSテストネットワークの
開発運用
セキュリティシステム、電子データ交換(EDI)、分散データベースの高度な検索システムなどの研究開発を行うとともに、実証システムを検証するために必要なテストネットワークの環境を構築する。

表1:CALS実証事業のテーマ
出典:JIPDECホームページ

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株式会社日本総研ソリューションズ 坂井 司
著者プロフィール
株式会社日本総研ソリューションズ  坂井 司
技術本部 マネジャー
1989年 東京大学工学部原子力工学科卒業。同年 株式会社日本総合研究所に入社。以降、システム開発経験を踏まえ、企業のガバナンスに資するためのシステムコンサルティング活動等を展開。システムアナリスト。ITコーディネータ。「電子認証が日本を変える」(生産性出版)監修。


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