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会社を強くするIT、弱くするIT
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第1回:なぜ「リーダーシップ」がITの成否を分けるのか?

著者:エンプレックス  藤田 勝利   2007/6/8
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企業風土が見え隠れする導入会議〜「一人称」で語る責任感とリーダーは?

   システムの導入を検討する、あるいは実際に導入する段階で、各部の責任者が集められ検討会議が催されることがよくある。

   私は元々組織コンサルティングのプロジェクトにも携わってきた経験から、その場に入った瞬間、あるいは会議がはじまって数分のうちに、そのチームの中の「リーダーシップ」の有無を敏感に感じてしまう。

   参加者の方の発する言葉や表情、姿勢から「この会社は必ずITの導入にも成功されるな」と直感的に感じるのだ。「経営課題の解決に向けた、IT導入に対する強い意思と責任感」を感じるとでもいえようか。

   ある急成長中の人材紹介ベンチャー企業に当社のSFA(営業支援システム)が導入された際のことである。

   若い取締役の方が先頭に立ち「まだ不慣れなシステムだし、一時的には作業時間が増えてしまうかもしれない。しかし、これは会社の経営の質を高めるために、お客様へのサービスや、我々の仕事をよりよくするために、絶対に必要な取り組みだと私は考えています。後回しにせず、皆で一日でも早く安定稼動させましょう。わからないこと、不安なことがあれば私にいつでもいってきてください」とメッセージをだされた。

   文章で書くと非常に簡単に感じるかもしれない。しかし、この方が「一人称『私』」という言葉を何度も使われていたことに感銘を受けた。この一人称には自ら先頭に立ってこのチャレンジを乗り切るという強い意志があらわれる。そこに社員の信頼が集まって、ITの導入プロジェクトは正しい方向に加速していく。

   実際この会社では、検討会でも活発な意見が飛び交い、テスト運用、不具合の洗い出し、追加要件の洗い出しにおいても現場の社員の協力を見事に引き出してプロジェクトを進めている。

「目的と使命」が成功の鍵

   また対照的な例もある。組織横断的にプロジェクトを進めるリーダーが決定せず、役員の方も「システムに詳しくない」という理由で現場に任せてしまうというケースだ。

   これも実際に私が最近直面した実例であるが、そういう状況ではシステム選定の基準はどんどん部分最適化する傾向がある。具体的には、自身の部署や業務の改善に最も合ったものを各担当者の方が選定していき、最後は「それぞれ別のシステムでもよいのではないか」という結論になりやすい。

   ここで敢えて何度も言おう。ITの導入には強い経営課題解決に向けた「目的」が不可欠だ。そして担当者やベンダーは「経営課題から目を逸らさず、最良の解決案を提案する」という強い使命感が必要なのである。

   そのために、最後は「失礼ですが、システム以前に皆様の考えは同じ目的と方向に向いていますでしょうか。そのシステムで、本当に実現したいことができるでしょうか」と問題提起することも必要であろう。

   「企業の変革とは、突き詰めると『失われた目的』を再発見していくプロセスだ」と筆者は常々思っている。1、2名で創業した時点では明確であった目的が、徐々にマーケティング、営業、経理・財務、IT、あるいは事業部門といった「縦割り」組織になるにつれて、見えにくくなっていく。

   組織横断的に取り組むITの導入時にこそ、それを現場レベルから見直せるチャンスでもあるし、そのような意識で取り組まれる会社も多い。現場での仕事のやり方、情報の伝え方、共有の仕方には、変革の種や組織風土をあらわすヒントが無数に隠されている。IT導入時には、そこから目を逸らさずに、もう一度事業の目的と使命を問いながら、真に投資対効果の高いIT導入を実現していただきたい。

   マサチューセッツ工科大学のトーマス・W・マローン教授の言葉を借りれば「ITは企業経営に変化をもたらすものではなく、変化を可能にするものである」という。実際の変化を起こすのは組織の目的共有と人の力だ。ITを導入する際に、まずは「データベース」「帳票」の絵抜きに、やりたいことを思う存分、社員が語り合う、そのような場と組織風土があるべきだし、ベンダーとしても、まずはそのようなお手伝いをしていきたと切に思う。

   大金をかけても使われないITという悲惨な状況は、財務的にも、風土的にも会社を弱体化させる。それを防ぐための鍵は、皮肉なようではあるが、やはり「人の心」に影響を与えるリーダーシップにこそあると思う。

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エンプレックス株式会社 藤田 勝利
著者プロフィール
エンプレックス株式会社  藤田 勝利
住友商事、アクセンチュア(当時アンダーセン・コンサルティング)を経て、米国クレアモント大学 P.F ドラッカー経営大学院にてマネジメント論を学ぶ(MBA with Honor)。専攻は経営戦略論ならびにリーダーシップ論。現在は、「経営とITの融合」を目指した多様なソリューションを提供するエンプレックスの事業開発担当 エグゼクティブマネージャーとして、各種新規事業立案、組織コンサルティング、中小・中堅企業向けIT化支援などを展開。大手・中小企業、政府官公庁に対する業務変革、組織変革、企業風土改革、マーケティング戦略立案などのコンサルティング実績多数。
共訳書「最強集団『ホット・グループ』奇跡の法則」(東洋経済新報社刊)


INDEX
第1回:なぜ「リーダーシップ」がITの成否を分けるのか?
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  「Nice to have(あればよいな)」の罠
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