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スケジュールとコストに関する指標が一目瞭然にわかるEVM
スケジュールとコストに関する指標が一目瞭然にわかるEVM

第1回:EVMの導入効果と概要
著者:プライド   三好 克典   2006/3/6
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はじめに

   今このページを読まれている方はEVMもしくはプロジェクトマネジメントに興味を持たれている方ではないだろうか。発注者側の方がEVMによる報告がどれほどの効果を持つのか調べるために記事を読んでいるかもしれないが、ほとんどの読者の方は受注/開発する側の立場ではないだろうか。

   当連載では主に受注者側の視点で進めていくが、発注者側にもEVMの本質・事例・課題についての解説は参考になると思う。

   おそらく、これを読んでいる大多数の方は「PMBOK」についての知識はすでに持っていることと思う。しかしながら、そこで紹介されている手法について、本質の理解・具体的な実践といった観点での理解度についてはどうだろうか。

   日本でEVMが注目を浴びはじめてから数年が経過しているが、実際に導入した事例はまだまだ少ない。当連載ではPMBOKで「進捗測定の最も典型的な手法」として紹介されているEVMについて、その本質や期待すべき効果、そして適用に当たっての注意点や今後の課題を紹介していく。これを読んだ方のEVMに対する理解が深まり、導入判断の一助となれば幸いである。

   最近、システム開発の現場を取り巻く環境は厳しさを増している。毎日深夜まで対応に追われ、やっとの思いで納期に間に合わせる。そんな事を繰り返している方も多いだろう。

   技術者は多少無理をしたとしても、高品質のものを納品してユーザに喜んでもらいたいという思いもあるだろうが、経営者側はそうはいっていられない。また、赤字プロジェクトが続けば技術者だって居場所がなくなる。EVMとはプロジェクトがこのような状況になる前に、事前にアラームを発するために開発された技法の1つである。


EVM登場の背景

   EVM登場の背景についてもう少し掘り下げてみる。スケジュールの管理手法として皆さんご存知のガントチャートは1900年代前半にはすでに使用されてきた実績がある。CPM(Critical Path Method)は1957年、PERT(Program Evaluation and Review Technique)は1958年に開発された。どれもスケジューリングに関する技術でコストに関する意識は薄い。

西暦 手法 開発元
1957 PERT アメリカ海軍/ロッキード社
1958 CPM デュポン社/ランド社
1962 PERT/COST 米国国防総省/NASA

表1:スケジューリングに関する技術一覧

   これに対し、PERT/COSTが確立したのは1962年である。PERT/COSTはその名の通り、EVMの概念であるコスト(予算・実績・見積り)を意識した手法である。ツール確立の順序からいっても、スケジュール管理が先でコスト管理は後回しだったことをうかがい知ることができる。

   皆さんの中でも、スケジュールは常に意識しているがコストはあまり意識していないという方も多いのではないか。EVMはスケジュールに関してアラームをあげてくれるのだが、当連載ではスケジュール管理は必要に応じて実施されていることを前提とし、EVMの特徴であるコストと予測に着目して論じることとする。


政府の対応状況と最近の動向

   こうして開発/改善されてきたEVMであるが、経済産業省では「情報システムに係る政府調達制度の見直し」としてEVMをはじめとするプロジェクト管理手法の導入を通じ、調達の企画・管理の適正化をはかると述べている。

   また、ガイドラインとして「EVM活用型プロジェクト・マネジメント導入ガイドライン」を情報処理振興事業協会(IPA)が平成15年3月に作成して公表した。平成16年度には経済産業省がプロジェクトに実際に適用している。

   まだ課題は多いものの、政府調達に関しては今後EVMによるプロジェクト管理が普及していくだろう。

   また、大手企業を中心としてすでにEVMによるプロジェクト管理のシミュレーションや実践がはじまっている。EVMを導入したり適用する/しないは別として、知らなかったでは済まされないところまで来ている。EVMを知らなければビジネスチャンスを失う可能性があるといった時代になってきたといえる。


無理にEVMを適用する必要はない

   ただし、無理にEVMを適用する必要はない。EVMを適用するのは、基本的には億単位以上のプロジェクトが対象となるだろう。それより低い金額のプロジェクトに対しEVMでの管理をしようとすると、管理工数のオーバヘッドを吸収しきれないため、結果として費用対効果の低い割高なプロジェクトになってしまうからだ。

   つまり、受注者側はあらかじめ管理工数分を上乗せした開発の見積りをださなくてはならない。

   これからは発注者側からEVMでの管理/報告を求められることもあるかもしれない。そんな時、受注者は「はい、そうですか」と単に管理工数分の金額を上乗せしてしまうのではなく、発注者と協議した上でEVMの本質と照らし合わせ、EVMを適用すべきプロジェクトなのかどうかを判断するべきである。

   EVM適用対象は基本的に億単位のプロジェクトであると述べたが、大きなプロジェクトを1次受注した会社からの2次受注/孫受けの際にEVMの適用を求められる可能性は大いにあり得る。

   1次受注した会社によって基準はすでに決められていると思うが、管理工数の上乗せ分についての価格交渉や社員への動機付けといった対応は必要である。そういったことから、どんな場合でもEVMの本質を理解しておくことは重要である。

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株式会社プライド 三好 克典
著者プロフィール
株式会社プライド   三好 克典
前職にてプロジェクト管理や標準化が非常に重要であると考え、技術習得及び実践の場を求めてプライドに入社。現在、システム開発方法論「プライド」を軸に、プロジェクト管理、標準化、情報資源管理の支援に携わっている。

INDEX
第1回:EVMの導入効果と概要
はじめに
  EVMの導入効果
  EVM概要