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第6回:あらゆることをプラスに導く顧客業務の徹底理解
著者:イマジンスパーク  深沢 隆司   2006/4/26
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顧客側のモチベーション不足が引き起こすもの

   「複雑さや膨大さ」「根本的な面倒くささ(疲弊感)」「不安や恐怖」「情報不足」「迷い」など、モチベーションを下げる原因には様々なものがあります。そして、顧客側担当者や承認者のモチベーションが低いことによって生じる損害は、開発側のマネージャーの低モチベーションによる損害よりも遙かに大きくなっているのではないかと筆者は感じています。

   あるプロジェクトで、「もう少し考えて外注先に指示をだせば、数億円どころか10億円ぐらい安く、しかも確実に納品できるのに」と思ったことがあります。その時はマネージャーとしてではなく、孫請けの末端エンジニアとして参加したプロジェクトでした。そのため決定権のなさや伝え方の稚拙さなどもあって、努力はしたものの、筆者の考え方は当時まったく受け入れられませんでした。

   その時の開発側の言動は反応的、受動的なものばかりであり、プロジェクトマネジメントが機能していないと言ってよい状況でした。

   例えばプロジェクトの初期段階から数十人もチームメンバーが参加しているにもかかわらず、筆者が参加した時点では顧客であるユーザの現場を詳細に見た者は1人もいませんでした。

   そもそもこの状況は顧客側マネージャーの恫喝によって起こされたのではないかと筆者は考えています。

   「顧客業務の徹底理解」のための環境を整えるという視点がないまま、大人数を投入しているため、プロジェクトが混乱しきってしまい、そこをさらに顧客側マネージャーが怒鳴ってしまうという成り行きでした。開発側マネジメントは顧客側マネージャーの言いなり状態となってしまい、結果として顧客側の不利益となる要求に対してすら、どうにもできなかったのだと思います。


開発を飲み込む恫喝や強制

   長期的に見て本質的な解決にならない恫喝や強制によってプロジェクトを進めようとするというのは、思慮を中途放棄してしまっているのであって、根本的にモチベーション不足の表れだと考えています。これについては以前にも書かせていただきました。

   特に顧客側マネージャーなどによる恫喝は最終的に開発側全体を飲み込み、チーム全体が極めて生産性の低い精神状態で活動することになってしまいます。このような場合の開発側の損害は、当該プロジェクトのみで収まらず、後々の開発業務にも影響する場合があります。

   「自分たちの要因から、このような状況を引き起こさないための開発側組織としての取り組み」、そして「自分たちの要因ではない場合に自社の人的資源を守ること」は、本来、開発側経営層レベルの課題です。

   これを実現できないような組織では、要員がそのムードに慣れてしまい、多くの場合「どうも上手くいかないが、これだけやっている」という証拠作りにかなりの労力を費やしていることでしょう。そのようにして自分たちを守る以外に選択肢がなくなってしまっているということです。

   顧客側が開発側とよい関係を築くことができ、かつ開発側マネジメントのモチベーションも高い状況であれば、何か問題が発生したとしてもすぐに対処できたり、影響範囲がそれほど大きくならずに済むものです。しかし冒頭の例では何とかしようとする気持ちが起こりにくくなっており、顧客側にいわれるがままです。

   恫喝によって支配している側の者がシステム開発に高い見識を持っているのならともかく、多くの場合そうではありません。極端ないい方をすれば、プロジェクト全体がシステム開発の素人によって指揮されており、結果的に甚大な損害を出してしまうのです。開発側もシステム開発の素人を安心させられないという意味でプロとは言い難い状況です。少なくとも、開発側のマネジメントは盾となって、実作業者たちが飲み込まれないように守らなければなりません。

   プロジェクト管理は一概にこうすればよいということをいえるものではなく、「しっかりとしたコミュニケーションによって、相互に信頼関係を築いていかなければならない」としかいいようがありません。

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イマジンスパーク 深沢 隆司
著者プロフィール
株式会社イマジンスパーク   深沢 隆司
株式会社 イマジンスパーク 代表取締役
陸上自衛隊少年工科学校第25期生。対空戦闘指揮装置の修理要員として自衛隊に勤務。退職後に一部上場企業や官庁でのシステム開発等で仕様策定、プロジェクトマネジメントに従事し、独自の手法で成功に導く。著書は『SEの教科書』他。

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第6回:あらゆることをプラスに導く顧客業務の徹底理解
顧客側のモチベーション不足が引き起こすもの
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  稼働後の不満を解決する顧客業務の徹底理解