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会社を強くするIT、弱くするIT
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第2回:競争力を高めるためのIT導入のステップとは?

著者:エンプレックス  藤田 勝利   2007/7/6
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何のため、利益を出すためのITか〜「戦略」シナリオの必要性

   「ITはツールにすぎない」という話がよくある。しかし「ツール」と定義するためには、「目的」を明確にする必要がある。でなければ、ツールが目的化してしまうというもっとも危険なシナリオを避けられないからだ。

   「第1回:なぜ『リーダーシップ』がITの成否を分けるのか?」では、「変革とは分散された『目的』を改めて統合していくプロセスである」と解説した。上記の「ツール」論の中で、決定的に「目的」論が欠如しているケースが多い。目的が共有されていない企業は、IT導入の議論も上滑り、長期化、複雑化、延いては高コスト化する傾向がある。

   逆にIT導入はチャンスでもある。ITをきっかけに、具体的な「事業戦略」「優先順位」に改めて切り込むことができる。戦略とは、よく使われる言葉であるが、私はシンプルに以下のように考えている。
  1. 「機会」の大きい市場/顧客層に対し
  2. 「自社のリソース」を最適に配分して攻め込み
  3. 競合相手が入り込みにくい「障壁」を築いていく

表1:戦略の3つのステップ

   IT導入を検討する際にも、上記3つの視点をリーダーが常に頭に描く必要がある。POSシステムに社運をかけたセブン・イレブン社にせよ、強固なナレッジマネジメントで世界的なベストプラクティス共有を実現した、私が以前在籍していたアクセンチュア社にせよ、トップが「何が自社の競争優位になりうるか」を明確に意識し、システムを構築している例だと思う。

   特に鈴木敏文氏は、当時の小売・流通業界では異例のIT投資をしたことで、周囲との軋轢もあったと聞くが、自社の競争優位、成長シナリオから不可欠と判断された。しかも、鈴木氏自身は人事畑出身であり、営業も、ましてITのことも詳しくない。彼にあったのはまさにリーダーとして未来の機会を発見し、リソースを効率的に活かし、他社からの圧倒的な参入障壁を築く、という発想であった。

   一方で、こういうお話をすると、「営業支援システムやERPなど、社内で使うシステムはコスト削減目的だから、あまり戦略とは関係ないのではないか」といわれる。しかし、そのような発想では大きなIT投資効果は望めない。

   たとえいわゆるコストセンターという位置づけの部門・社員であっても、「自分たちの仕事の進め方や時間の使い方が、会社全体の戦略や利益にどう貢献していくか」という共通イメージを持てていないと、「部分最適で分断されたシステム」や「本質的には不必要なアドオン、カスタマイズ開発」のような結果になり、IT構築という投資に対して、全社として利益が生まれないのである。

   そのためバックオフィスシステムでも、以下のような視点が必要だと考える。

  • この業務を効率化すると、人の手作業やミスが減って、どれくらい時間を効率化できるか(したいか)
  • このシステムを入れることで、どれくらいのコストが軽減でき、その分をより生産的な業務に割り当てれば、全社の利益にどれだけ貢献するだろうか
  • 会計情報、内部統制の強化によって、IR、経営管理、上場準備という経営的なメリットをどれだけ享受できるか

表2:バックオフィスシステム導入に求められる視点

   ただし、残念ながらそこまで考えられてITの導入を検討されている会社は少ないのではないだろうか。

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エンプレックス株式会社 藤田 勝利
著者プロフィール
エンプレックス株式会社  藤田 勝利
住友商事、アクセンチュア(当時アンダーセン・コンサルティング)を経て、米国クレアモント大学 P.F ドラッカー経営大学院にてマネジメント論を学ぶ(MBA with Honor)。専攻は経営戦略論ならびにリーダーシップ論。現在は、「経営とITの融合」を目指した多様なソリューションを提供するエンプレックスの事業開発担当 エグゼクティブマネージャーとして、各種新規事業立案、組織コンサルティング、中小・中堅企業向けIT化支援などを展開。大手・中小企業、政府官公庁に対する業務変革、組織変革、企業風土改革、マーケティング戦略立案などのコンサルティング実績多数。
共訳書「最強集団『ホット・グループ』奇跡の法則」(東洋経済新報社刊)


INDEX
第2回:競争力を高めるためのIT導入のステップとは?
何のため、利益を出すためのITか〜「戦略」シナリオの必要性
  「企業変革のステップ」はそのままIT導入ステップにあてはまる
  「データ」「情報」「ナレッジ」〜IT導入で何を変えたいのか?