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ビジネスとITのギャップを埋める〜システム開発の失敗を招く4種類のギャップ〜

第7回:スキルのギャップはスキル不足から発生する
著者:ウルシステムズ  高橋 浩之   2007/8/7
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スキルのギャップとは?

   前回までに「ゴール」「アクティビティ」「プロセス」という3つのギャップについて説明し、情報システム部門の方々へこれらのギャップに対する解決方法を紹介してきた。「ビジネスとITのギャップを埋める〜システム開発の失敗を招く4種類のギャップ〜」と題してお送りしてきた連載の締めくくりとして、今回から2回にわたり最後の「スキルのギャップ」について解説する。

スキルのギャップに引き起こされるシステム開発の失敗

   スキルのギャップとは何か。それは「要件を満たしたシステムを作ることができない」という失敗を引き起こす要因のことである。その実体は、システムを作るために必要なスキルを、実際にプロジェクトに参加している開発メンバーが持っていないというものだ。

   プロジェクトにスキルのギャップが存在すると、どんなに時間をかけたとしても要件を満たすシステムができあがることはない。さらに一番厄介なのは、できあがったと思っていたシステムが、実は要件を本当には満たしていない場合である。システム運用を開始した後で突然停止したり、パフォーマンスの低下が生じるなど、社会的に大きな問題を引き起こすのは、気づかないスキルのギャップがあったためである。

   以下に、企業システムで起きがちなスキルのギャップの具体例として、2つの事例の形で説明する。いずれも実際に著者が経験したものを基に、業界や状況を変更して作成したものである。


社内データ連携システムの例

   最初の例は、全国に拠点を持つ大手流通業A社の社内データ連携システムの構築で発生したスキルのギャップである。

   A社は複数の会社のM&Aにより企業拡大してきたこともあり、情報システム部門において全社のシステム構築を一貫していなかった。つまり、各地域拠点が各々取引をしているITベンダーとともに、業務上で求められるシステムを個別に作っていた状態であった。

   A社では全社的な処理を行うために、これら各拠点でばらばらに開発された複数のシステムの連携をはかる必要があった。システムにはホストをベースにしたものから、ERPシステムまで様々なものがあった。もちろん通信のプロトコルやファイルのフォーマットも統一されてはいない。システム間の連携はバッチによるファイル渡しがほとんどであり、プロトコルやデータフォーマットの変換は連携の必要なシステム間で個別に行われているという状態である。

   A社では近く行う予定の大型合併に向け、システム連携の方式を刷新することになった。その時点で、すでに連携のための変換ロジックは非常に複雑化していた。さらに合併に伴って生じる多くの連携プログラムを開発するにはコストがかかりすぎる。また一方で、複雑な変換ロジックはメンテナンスも難しい状態だったのだ。

   新方式では、EAIツールを導入することによって、システム間の連携を容易に実現することが計画された。このツールは複数の種類のプロトコルやデータフォーマットに対応しており、データ変換は「マッピングツール」と呼ばれるGUIツールを用いて容易に開発できるミドルウェアであった。このツール導入によって開発コストは大幅に削減することが期待された。

EAIツール導入によるデータ連携の統合
図1:EAIツール導入によるデータ連携の統合
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)

   EAIツールを用いた連携システムは順調に開発が進んでいったが、終盤になってパフォーマンスが出ないという問題が発覚した。データ連携に必要なバッチ処理を行える時間は深夜から早朝までの数時間であったが、必要なデータ連携処理がその時間内に終わらないケースが発生していることがわかったのである。

   このEAIツールでは、中央の変換サーバで各フォーマットを一度XML形式の共通構造に変換する。すべてが共通の構造になるので相互の変換の見通しがよくなるというメリットがあったが、データを共通構造へ変換する変換サーバの処理速度がボトルネックになるというデメリットもあった。また、変換するデータは並列処理で受け取ることが可能だったが、結局は変換サーバでの処理で詰まってしまうため、全体として並列処理できるデータ連携は増えず、必要なパフォーマンスを得ることができなかったのである。

   可能な限りファイルフォーマットを小さく単純化し、既存のシステム連携方式も併用するという対策も実施した。しかし最終的には十分なパフォーマンスを実現できず、結局もう1台変換サーバを立て、負荷分散をせざるをえなくなった。追加したハードウェア費用とソフトウェアのライセンス費用が発生し、数億円のコスト超過という結果になってしまった。

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ウルシステムズ株式会社 高橋 浩之
著者プロフィール
ウルシステムズ株式会社  高橋 浩之
シニアコンサルタント
入社以降、業務分析や開発プロセス設計、運用設計の関わった後、品質保証やプロジェクトマネージャーまで、様々なミッションの下で、息つく間もなくプロジェクトに参画。現在は「Web 2.0的システム」のディレクターとしてAjaxと戯れる日々を過ごしている。


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第7回:スキルのギャップはスキル不足から発生する
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