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ビジネスとITのギャップを埋める〜システム開発の失敗を招く4種類のギャップ〜

第4回:アクティビティ(業務)のギャップを解消するには
著者:ウルシステムズ  山森 慎也   2007/5/22
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アクティビティのギャップとは

   「第3回:ゴールのギャップを埋める施策」では、ゴール(目的:Goal)のギャップをどのように解消していくのかを具体的に説明した。

   今回は、アクティビティ(業務:Activity)のギャップの解決方法について解説する。結論からいってしまえば、アクティビティのギャップの正体とは、利用する現場ユーザの業務に対して、そのあるべき姿を支援できるようにシステムを開発していないということだ。

   今回も、実際にあった事柄を基にして再構成した事例をみながら、そこで起こったギャップについて解説していく。

事例で見るアクティビティギャップ

   中堅電子部品ベンダーA社は、利益率の低下に苦しんでいた。携帯電話用の電子デバイスによって急成長を遂げてきたが、最近は顧客からの短納期・高機能・低価格の要求が強まり、不利な条件での受注が増加したためである。

   A社の経営陣は、利益率の低下を食い止めるため、個別原価計算の適用を決めた。携帯電話用電子デバイスは、受注時に相当量のカスタマイズを顧客から要求される。大口受注を獲得したい営業部は顧客要求を丸飲みしがちであり、それに対応するために技術部は、要素技術開発の方向とは合わない、コストのかかる雑多な要求実現に追われていた。

   こうした状況が利益率の低下を招いていると判断した経営陣は、個別原価計算を導入し、製品単位の利益率を正確に把握することで、カスタマイズ要求の受け入れに一定の歯止めを掛け、顧客ニーズが高く高収益が期待できる要素技術に開発投資を集中しようとしたのである。

   個別原価計算の適用は、経営陣の強いリーダーシップの下で進められ、原価管理システムの導入も含めて3ヶ月という短期間で実現された。原価管理システム導入後は、毎月の原価計算結果を営業担当者の個人端末で参照できるようになった。さらに、カスタマイズ要求による製造原価の増加分や、目標利益の確保に必要な受注台数などのシミュレーションもできるようになった。

   これによって、不利な条件での受注が減少し、利益率も回復の兆しをみせたのだが、そこで想定外のトラブルが発生してしまったのである。


トラブル発生

   新しい原価管理システムが効果を発揮しはじめた頃、いくつかの製品のリピート受注で、極端な利益率の低下が発覚した。

   経営会議において、大口のリピート受注を獲得した製品について営業部長が報告した際に、販売単価が極端に低いことを技術部長が指摘した。技術部長の意見では「この製品には新開発のカスタムICユニットを搭載しているので、こんな販売単価では採算が合わないはずだ」という。

   ところが、営業部長は「初期ロットの原価計算結果を基に、一定の利益を確保できる販売単価を設定した」と主張する。システムを使って初期ロットの原価計算結果を確認すると、営業部長の主張に間違いはない。

   しかし、それを見た技術部長は「こんなに安いはずがあるか!これは、汎用品のICユニットを搭載した場合の値段じゃないか!」と叫んだ。つまり、ICユニットのタイプが間違っていたために、初期ロットの原価が実際よりも安く計算されてしまったのである。

   ICユニットには外部から購入する汎用品と社内で製作するカスタム品の2つのタイプがあり、カスタム品の単価は汎用品の5〜10倍となっている。問題が起きた製品にはカスタム品を搭載していたが、原価管理システムのデータ上では、汎用品を搭載したことになっていた。

   原価を実際よりも低く想定して、ぎりぎりの価格で受注していれば、大幅な減益を招き、下手をすると赤字になっても不思議はない。しかも、この原価計算の誤りは同じ製品ではなく複数の種類の製品にまたがって生じていたのである。

   短期導入に成功した原価管理システムに欠陥があると考えた経営陣は、直ちに外部のコンサルタントも含めた対策チームを発足して調査に当たらせた。

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ウルシステムズ株式会社 山森 慎也
著者プロフィール
ウルシステムズ株式会社  山森 慎也
ビジネスプロセスコンサルタント。製造業における商品企画、設計・開発、原価管理の業務改善および生産計画システムの運用改善を手がける。「仕事のやり方こそ競争力の源泉」をモットーとし、現場主導によるワークスタイルの革新を目指して、「人」と「IT」の両面からアプローチしている。


INDEX
第4回:アクティビティ(業務)のギャップを解消するには
アクティビティのギャップとは
  原因は人為的なミス、背景にはアクティビティのギャップ
  処方箋その1「三現主義で現状を把握する」
  処方箋その3「小さな成果を早くだして広く知らせる」