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ERPに新勢力登場!オープンソースERP

第3回:ERP5を支える思想と技術

著者:Nexedi  奥地 秀則   2007/2/19
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ERP5

   「第1回:国内・海外のERP最新動向」では、ERPの動向やメリットについて、「第2回:ERPの選択基準」ではERPを選択するにあたって検討すべき項目について解説しました。

   第3回の今回は、オープンソースソフトウェアのERPの中でも、ヨーロッパ、アフリカ、アジアを中心に広まりつつある「ERP5」を技術とビジネスの両面から紹介します。

ERP5の概要

   ERP5の特色の1つは、現場のニーズによって誕生したことです。その発端は、フランスの水着メーカーCoramyが、オープンソースERPの開発に専念する独立企業として、Nexediに出資したことに遡ります。

   アパレル業界はもっとも複雑度の高い業務を行う業界の1つであり、従来のERPではそれらに対応することが困難でした。本来ITを業務としない企業であるCoramyにとって、社内開発はマイナス面が大きかったにもかかわらず、当時のCoramyでは社内開発に頼るしかありませんでした。それはプロプライエタリなERPでは機能不足を十分に補えないため、コスト負担を避けることができない状態だったためです。

   この矛盾を解決するため、CoramyはオープンソースERPを社外で開発させることを決定しました。オープンソース化することによって、ソフトウェアを自ら管理することができると同時に、自社だけで開発コストを負担する必要がなくなるという利点に着目したのです。

   また、従来のERPでは困難であった様々な問題点の解決をも同時にはかりました。表1にERP5の目標として設定された要求条件を示します。

要求条件 解決手段
ユーザがソフトウェアを完全に制御できること 全システムをオープンソースソフトウェアだけで構築可能とする。
低予算で開発すること 既存ソフトウェアを適切に再利用する。
モデルの統一によって開発工程数を削減する。
メタプログラミングによって開発効率を上昇させる。
迅速な拡張を可能とすること システム停止を行わずにオンラインで開発できるようにする。
Web上でコンポーネントの作成や変更を可能とする。
動的なプログラミング言語を採用する。
現場の事情を考慮した柔軟性を保持すること 多次元データ構造を全面的に利用する。
ユーザの入力をすべてそのまま保存する。
予想と現実の違いを無視しない。

表1:ERP5の目標

   ERP5における重要な思想は、「考えつくことのできる状況は、それがどれほど荒唐無稽であっても、現場では発生する可能性がある」ということです。

   例えば、アパレル業界では素材をメートル単位で発注することが多いのですが、注文時に100メートルであったものが、実際に届くと99メートルであったり、101メートルであったりします。あるいは、注文品とは微妙に色合いが異なっていたり、配送が遅れたり早まったりすることは日常茶飯事です。

   従来のERPに多く見受けられる、会計に偏重したシステムでは、現場で頻繁に発生するこれらの事象を正しく記述することができません。そのため、本来の意図と現実に生じた結果との違いを説明することができず、過去の実績を振り返り、将来の予測に役立てることができないのです。

   それに対してERP5では、常に本来の意図と現実に相違が伴うことを前提とした設計がなされており、これらの事象に柔軟に対応することができます。この点だけでも、ERP5が現場のニーズから生まれたソフトウェアであることを垣間見ることができます。

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Nexedi 最高技術責任者 奥地 秀則
著者プロフィール
Nexedi 最高技術責任者
奥地 秀則

オープンソースERP「ERP5」の設計・開発に初期段階から関与し、現在ERP5の技術責任者を務める。服飾業、金融業、鉄鋼業、自動車産業、航空宇宙産業におけるERPプロジェクトを経験してきた他、社内外のエンジニアやコンサルタントのトレーニングを指揮している。


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