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第8回:「ドキュメントとプログラムソースの量産」の実現とは
著者:イマジンスパーク  深沢 隆司   2006/6/1
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仕様書を作っている人にしかわからない情報が引き起こす問題

   このように、「仕様書を作っている人にしかわからない情報によって引き起こされている問題」の影響が無視できないほど大きいと考えています。そして、この状態は従来、仕様策定者とプログラマが単なる役割分担であって相互に対等であるという意識がなく、仕様策定者は何となくSEと呼ばれ、プログラマよりも上位の役職であるかのような構造が業界全体に存在していたためになかなか改善されませんでした。

   つまり、プログラマが仕様書の不備にケチをつけることはしにくかったわけです。インプリメント・リーダーというプログラマの代表にあたる役割を明確にし、プロジェクト・マネージャーや仕様策定者と対等に配置することによって、このことは組織構造として解決しやすくなるのです。

   そして同時に、個々の実装を行うプログラマ達に対する「この文書だけを見て、何を作るのか理解できなかったらすぐに質問すること」という基本ルールによって、仕様策定者の責任範囲を明確にします。

   上記の説明では、仕様策定者とプログラマには対立関係があるかのように見えると思いますが、そうではありません。このようなルールを明確にしてはじめて、仕様策定者とインプリメント・リーダー間の対等な協力関係を実現でき、高い相乗効果が得られ、高品質の「スペックパターン」の文章化が実現します。

   仕様策定者はあくまで「最大の効率で顧客側の要件を実現するシステムを設計する」ということに責任を持ちます。そして、「モデルソース」の作成などを通じて、「その設計をどのように実装するかということについて、本当に無理や矛盾なく具体的に実装できるかどうかの検証も含めて見極めていく」のが、プログラマの代表であるインプリメント・リーダーの責任範囲です。

   そしてプロジェクト・マネージャーは物心両面でこれらの作業を最大限効率的に行えるような作業環境を整えて行くことが、その役割です。

   結果として、自ずと日本語記述と実装されるコードの同期のために仕様策定者とインプリメント・リーダーが協力し合うことになります。

   うまく表現しにくいのですが、前記同様、何となく「SEがプログラマより上位の役割である」という認識があるために、現実にそのプロジェクトで実装を行うプログラマが関与しないうちから実装の是非や可否を決定するのも、SE(仕様策定者)が行わなければならないという、暗黙の役割分担ができてしまっている場合も多いようです。

   例え仕様策定者が過去にプログラマの経験を持っているとしても、そのプロジェクトで実際に実装を行わない以上、現実に実装ができるのかできないのかの判断や実装方法を決めることを役割とするのはおかしいはずです。特に、当該プロジェクトで使用する「そのまま」の開発環境で、実務レベルの実装を行った経験がないのなら、その役割分担はまったく理にかなっていません。

   実装は、それほど簡単な仕事ではありません。そこは、プログラマとしての高い能力を持った者が責任を持たなければなりません。そして責任を持たされる以上は、プロジェクトの初期段階から対等な立場で関与して、検証に必要とされる十分な時間等の資源が与えられなければなりません。

   本来、仕様策定者とプログラマは、前記のような形で共同作業をするべきですが、実現できていないとしたら、それは役割分担などを少しでも明確にしていくことが役割である「マネジメント」に原因があるということなのでしょう。

   昔からよく聞く、IT業界での「開発」と「営業」との対立関係も同様だと思います。会社単位で見れば利害関係は一致していて、上手く協力し合って仕事をこなしていく方がお互い利益が得られるはずです。「明確な役割分担と責任分担は助け合うために必要」なのです。ですから逆に、「曖昧な「和」は結果として混乱と(表面化しにくい)対立を生み出しやすい」ということになります。

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イマジンスパーク 深沢 隆司
著者プロフィール
株式会社イマジンスパーク   深沢 隆司
株式会社 イマジンスパーク 代表取締役
陸上自衛隊少年工科学校第25期生。対空戦闘指揮装置の修理要員として自衛隊に勤務。退職後に一部上場企業や官庁でのシステム開発等で仕様策定、プロジェクトマネジメントに従事し、独自の手法で成功に導く。著書は『SEの教科書』他。

INDEX
第8回:「ドキュメントとプログラムソースの量産」の実現とは
  「ドキュメントとプログラムソースの量産」を実現する「スペックパターン」という考え方
  最初から高い精度で臨むことが肝心
仕様書を作っている人にしかわからない情報が引き起こす問題