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見積書の提出
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最終的に提出した見積書は8枚構成で最初にシステム構成などを書き、最後のページに全体の見積金額を掲載しました。T室長はこちらが説明をはじめる前に簡単に資料をめくっていましたが、金額が相当気になっているようで、最後の見積りのページをずっと渋い顔で眺めていました。その場は私と当社の会計コンサルタントで一通り見積りの概要を説明し、質疑応答へと移りました。
いくつか質問があった後、T室長から「このシステムを導入すれば、月次決算を行えるようになりますか」という質問されました。実際のところ、システムを導入しただけでは月次決算はクリアできなく、実際に業務を行う方が月次決算を行うために必要な業務ルールを遵守することではじめてシステムは有効に活用できるのです。
そこで、業務ルールの徹底が行われることを前提にシステム導入をはかることで、月次決算が行えることを説明したところ、理解してもらえたようでした。
ただT室長と話をしていて気になったのは、事業運営において月次決算の必要性を感じているというより、今回のシステム導入を単純に上場基準をクリアするために必要なものとしか感じていないのではないかということでした。もしかしたら、今後の運用まで視野に入れているのではなく、単に上場するという1点のみしか考慮されていないのではと思われました。
この訪問から数日後、T室長から当社にシステムの発注をしたいとの連絡があり、今回の提案が受け入れられた喜びを同僚とわかち合いました。そしてすぐにプロジェクトを開始するためのキックオフミーティングを行うため、Mコンサルティングにアポイントを取りつけ、契約書を携えて訪問しました。
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まさかの展開
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部屋に通されるとT室長の姿はなく、「お忙しいところご足労いただき、ありがとうございます」と、表情が浮かないW氏だけがミーティングに出席していました。私がアポイントを取ったのはT室長であり、またこのようなキックオフミーティングの場合はプロジェクトオーナーが出てくるのは通常ですが、この場合は明らかに通常とは違うと感じました。
ここで嫌な予感がしました。「まさか…」と思いつつも、最悪のシナリオだけは避けたいという焦りだけが募ります。しかし、今まで何度もこういう場面を乗り越えてきたので、「こういう時こそどっしりと構えねば」とモチベーションを高めました。
しかし嫌な予感は的中し、「実は、今回のプロジェクトは延期になりました」との知らせを受けました。あまりのショックに同席した当社の会計コンサルタントは声がでず、ファイルケースから今後のプロジェクトのスケジュール表を提出しようとしたその手が止まっていました。
何故そうなったか尋ねたところ、Mコンサルティング内において、システム導入だけは先行して進めようという意見もあったようなのですが、上場計画自体の上場時期が延期されたためといわれました。
おそらくは現状の業務フローに限らず、上場基準をクリアするためにいろいろ問題を抱えている様子だったので、監査法人から上場計画の見直しを迫られたのだろうと思いました。
結局、私が携えた契約書も日の目を見ることはなく、帰社することになったのです。
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セルフスターターを回し続ける
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セミナー開催から見積りに関する業務はそれなりに労力がかかり、また多くの方の協力を必要とします。だからこそ案件を獲得できた時の喜びは大きく、次の案件獲得に向けての歩みを進める活力にもなります。
正直今回の件についてはつかみかけた案件を逃した喪失感が大きく、次への一歩を進めることにためらいを感じました。
ただ営業の本質という観点から見れば、顧客からの引き合いはあり、当社のソリューションが受け入れられる可能性も十分あったのです。常にポジティブに考えることは本当に難しいのですが、このような局面に置かれたときにこそやる気のセルフスターターを回し続けられるかどうかが、営業を行う上で重要であると思います。
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著者プロフィール
株式会社ビーブレイクシステムズ 高橋 明
早稲田大学商学部卒業。大学卒業後日興コーディアル証券にてリテール、法人営業を行う。その後ビーブレイクシステムズの設立に参画し、現在に至る。専門は会計システムに関するコンサルティングセールス。
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