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企業戦略におけるビジネス・プロセス・インテグレーション
企業戦略におけるビジネス・プロセス・インテグレーション

第3回:ビジネスプロセスを意味のあるプロセスに
著者:日本アイ・ビー・エム  小倉 弘敬、佐藤 泉   2005/11/1
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ビジネスプロセスの向上とビジネスパフォーマンスの向上

   ここまでは、BPIシステムにおけるビジネスプロセスの実行時と定義時の要件と必要な機能について解説してきた。これ以外のフェーズにはどのようなものがあるか、そしてビジネスプロセスを向上していくためには、どのようなビジネスプロセスのライフサイクルになるのかを簡単にみてみよう。
ビジネスプロセスのライフサイクル
図3:ビジネスプロセスのライフサイクル

   ビジネスプロセスの効率をあげるには、以下のフェーズをまわしていくことが重要になってくる。

  1. 業務の流れをビジネスプロセスとしてモデル化するフェーズ(モデル)
  2. ビジネスプロセスに実際にサービスをつなぎ、実行可能な状態にするフェーズ(組み立て)
  3. ビジネスプロセスをサーバー上に配置し、実行させるフェーズ(実行)
  4. 実行中のビジネスプロセスを監視し、実行状況を管理するフェーズ(監視・管理)

表3:効率をあげるためのフェーズ

   これまでに解説してきた開発時のフェーズとは上記の1と2に相当し、実行時のフェーズは3に相当する。それでは4の監視・管理のフェーズではどのような要件が存在し、それに対してどのような機能や技術が存在するのだろうか。

   プロセスの監視・管理フェーズには、ビジネスプロセスの進捗状況をリアルタイムで監視し、ボトルネックが存在すればそれを見極め、ビジネスプロセスの修正へと反映していくという要件がある。

   そのためには、「第2回の長時間にわたる処理」に登場した「ビジネスプロセス監視機能」ももちろん必要だが、そこであげられた要件は実行中の個々のビジネスプロセスの監視に関する要件であった。

   しかしボトルネックを検出するには、よりマクロ的な視点が必要なために個々のビジネスプロセスだけではなく、同じ種類のビジネスプロセス全体の統計情報についても必要になる。例えば、以下のような情報を取得して表示する機能である。

1. 各処理にかかる時間(平均・最小・最大・分布など)
保険金の申請プロセスの例
ビジネスプロセスのライフサイクル
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大表示します)

2. 一定期間内に処理したプロセス数
商品注文プロセスの例
期間 全処理プロセス数 内、キャンセル
2005/01/01 - 2005/03/31 13,984 125
2005/04/01 - 2005/06/30 12,345 189

表4:情報取得の例
   1の情報でビジネスプロセスのボトルネックが存在することが判明した場合、早めに対処して改善していくことが可能である。

   2の情報からはビジネスプロセスの処理数を知ることができるが、これはITシステムの処理パフォーマンスという観点からだけでなくて、実際の注文数を示すので、直接売り上げに響く注文数の統計情報を取得することができる。特にキャンセルリクエストも自動で受けることができるBPIシステムであれば、そのうちキャンセルされた注文がどのぐらいを占めているかという情報もリアルタイムで取得することができるわけである。

   しかし本当に経営判断につながるようなビジネスパフォーマンスを、このようなビジネスプロセスに関する統計情報からうかがい知るには、この機能だけでは不足している。よりビジネスレベルの視点での判断材料となるデータ(KPI:業績評価指標など)を表示できる機能がなくてはならない。これがビジネスパフォーマンスを向上させるための要件である。

   そのためには、上記のようなビジネスプロセスのパフォーマンスデータを元に、それらと他のデータを関連付け、加工してビジネスの指標となるデータに変換する仕組みが必要である。

   例えば表4の1の例だが、この処理に責任のある部門の部長が自分の部門のパフォーマンスを知りたいという要件があるとしよう。部長が知りたい部門の毎月のパフォーマンスは、支払い確定総額や却下した総額、オペレーションなどである(図4)。

プロセスから業績指標
図4:プロセスから業績指標
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大表示します)

   これらの値はプロセスサービスのデータベースや会計データベースなどから取得できる数値をもとにして、プロセス監視エンジンによって数値を求めることができる。そして、求まった値をビジネスダッシュボードに表示することで、部長や役員などの経営陣が、自分の関心のあるビジネスパフォーマンス値をリアルタイムで監視することが可能になるのである。

   この方法はオブザベーションモデルとして、BPIシステムごとに様々な方法で実装されている。またSOAの全体アーキテクチャを実現したシステムにおいては、図5のようにビジネスプロセスからだけでなく、業務アプリケーションやデータベースシステムなどからもデータがエンタープライズサービスバス(ESB:Enterprise Service Bus)経由で集まってくるため、それらを加工して様々なビジネスレベルの情報を統合、表示することが可能になる。

SOAを実現したシステム
図5:SOAを実現したシステム


まとめ

   これまでBPIにおける要件とそれを解決するための技術やBPIシステムに必要な機能につい解説してきた。まとめると以下のようになる。

BPIの概要
表5:BPIの概要
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大表示します)

   昨今、BPIを実現するためのシステムがいくつか登場しており、実際に皆さんがそれらのBPIシステムを検討される機会も多くなるのではないかと思う。その際、BPIシステムには様々な機能の仕様一覧がリストされていると思うが、それらがどのような要件に基づいているのか理解するときに、本連載が一助になれば幸いである。

   そして最後に第1回のときの繰り返しになるが、これらの機能を単なる柔軟な業務システムを作るためだけではなく、もっと大きな目標である戦略を支えるシステム基盤を作るために生かして欲しい。このことを最後まで意識して実践したものだけが、本当の意味でのBPIのメリットを享受できるのである。

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日本アイ・ビー・エム株式会社 小倉 弘敬
著者プロフィール
日本アイ・ビー・エム株式会社  小倉 弘敬
日本アイ・ビー・エムソリューション開発 インテグレーション所属
ソフトウェア・エバンジェリスト。担当分野は、ビジネス・プロセス・インテグレーション(BPI:Business Process Integration)。WebSphere Business Integration(WBI)ソリューションセンターで、BPIソリューションの開発/提供に従事する。


日本アイ・ビー・エム株式会社 佐藤 泉
著者プロフィール
日本アイ・ビー・エム株式会社  佐藤 泉
入社以来、ワークフロー、ビジネスプロセスエンジン、ビジネスプロセスモニターなどのソフトウェア製品の開発やそれらの製品をベースとしたソリューションの提案活動に従事。
特に、SOAに則ったBPI(Business Process Integration)やBIO(Business Innovation and Optimization)を得意分野とする。


INDEX
第3回:ビジネスプロセスを意味のあるプロセスに
  はじめに
  再開発、再利用性の向上
ビジネスプロセスの向上とビジネスパフォーマンスの向上