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Ajax時代到来
Ajaxではじまるサービス活用

第7回:Ajaxはどこへ行くのか

著者:ピーデー  川俣 晶   2007/5/17
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開拓すべき新天地

   一方で、Ajaxの技術がデスクトップに侵食していく方向性は強くみて取れる。これは、先に述べたGoogleデスクトップガジェットやYahoo!ウィジェット、Windows Vistaのサイドバーガジェット、AdobeのApolloなどのすべてが該当する。

   しかし「デスクトップ上には、すでに歴史ある強力なソフトウェアの蓄積があるにもかかわらず、なぜ今更Ajax技術をデスクトップに持ち込む必要があるのか」と疑問を感じる人もいるだろう。

   その理由には様々なものが考えられる。これまで一般的だったものは、Web開発のノウハウを持った多数の技術者が即座にデスクトップ開発に投入できる、といった理由だ。しかしごく最近、筆者は別の理由が存在するのではないか、と考えるようになった。

   それは、従来型のデスクトップ開発が「実はニーズを満たしていない」という理由である。

   もう少し詳しく説明しよう。従来型のデスクトップ開発とは、オブジェクト指向開発である。UMLのような設計のための言語を使い、RUPやアジャイルといった開発方法論を適用し、Javaに代表されるクラスベースのオブジェクト指向開発言語を使用する。

   なお、Ajaxで使うJavaScriptのようなプロトタイプベースのオブジェクト指向開発言語は使用されないことが多い。

   このようなタイプの開発は、約束事や制約が多く、また取るべき手順も多い。直接的に結果を出すコードを単純に1行書くと「それは正しくない」とベテラン技術者に怒られることも珍しくはない。それでいて、柔軟性には乏しく、状況が変化してプログラムの仕様変更を求めても、素早く対応できないことが多い。

   筆者が「なぜこのような状況が生じるのか」について考えたとき、実は「クラスベース」という特徴によって必然的にもたらされる弊害ではないか、というアイデアを持つようになった。ここでいうクラスとは、プログラムを書く上での約束事(定義)そのものである。

   クラスベースの言語はクラスを定義しなければ実行するコードを書き込むことができないので、ともかく最初にクラスを定義するわけである。そして、もちろんそれ以降は書かれた「定義=約束事」に縛られることになり、変更要求に柔軟に対応しにくいのである。

   これらの弊害は、少なくとも開発の現場に「クラス」が持ち込まれるまでは存在しなかったと感じている。例えばC言語や古い世代のBASICによる開発には、もちろん多くの問題はあったものの、このような堅苦しさはなかった。

   そして、このような閉塞状況を打破するキーワードは「脱クラス」であり、それを実現したものがクラスのない「プロトタイプペース」なのではないか、と考えたわけである。

   とすれば、JavaScriptという「プロトタイプペース」の言語をデスクトップに持ち込むことは、従来型のデスクトップ開発の閉塞状況を打ち破る切り札となるかもしれない。さらにいえば、Ajaxの技術がデスクトップを「開拓すべき新天地」とみなし、デスクトップの世界も制覇してしまう、という可能性もあり得るのかもしれない。

まとめ・決定的勝者不在の世界とは

   Ajaxの世界とは、結局のところ「絶対的な勝者」が存在しない世界であると感じる。どれほど圧倒的に勝ち誇ったサービスがあるとしても、それは常に覆される可能性がある。

   もし、決定的な勝者が決まる世界であれば、勝った者はおごり高ぶり、あぐらをかいて座り込んでしまうだろう。ユーザのニーズを満たさずとも勝者で有り続けることができるなら、真面目な努力など払うはずもない。それはユーザにとっては不幸そのものである。

   そして、歴史はそのような事例に満ちあふれている。例えば、独自規格のパソコンでユーザを囲い込んだ1980年代のNECが、世界の水準から見れば性能の劣るパソコンをより高価に売っていたケースなど、いくらでも事例は見いだせる。

   またAjaxの世界とは、結局のところ「絶対的な正解」が存在しない世界であると感じる。だからこそ、各ブランドは自分なりのやり方を持ち、自分なりの勝利を目指さねばならない。ゴールも自分で決めねばならないのである。

   決定的勝者不在であり、自分なりの勝利を目指し続けるAjaxの世界では、緊張感が常に維持され続け、誰であろうとあぐらをかくことはできないのである。それは、ユーザにとっては幸福なことだろう。

   おそらく、それこそが真のAjaxの価値なのではないだろうか。

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株式会社ピーデー 川俣 晶
著者プロフィール
株式会社ピーデー   川俣 晶
株式会社ピーデー代表取締役、日本XMLユーザーグループ代表、Microsoft Most Valuable Professional(MVP)、Visual Developer - Visual Basic。マイクロソフト株式会社にてWindows 3.0の日本語化などの作業を行った後、技術解説家に。Java、Linuxなどにもいち早く着目して活用。現在はC#で開発を行い、現在の注目技術はAjaxとXMLデータベース。


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第7回:Ajaxはどこへ行くのか
  Ajaxの特性を理解する
  乗り越えられない制約
開拓すべき新天地