|
|
PMBOK2000と比べて覚えるPMBOK第3版 |
第3回:補強された「人」についての監視コントロール
著者:イマジンスパーク 深沢 隆司 2006/9/25
|
|
|
前のページ 1 2 3
|
|
承認済み変更要求(「ステークホルダー・マネジメント」プロセス)
|
「ステークホルダー・マネジメント」プロセスの英語名は「Manage Stakeholders」です。「統合変更管理」プロセス以外のプロセスでアウトプットに「承認済み変更要求」を持っているのは、このプロセスだけです。極めて特徴的です。
「承認済み変更要求」の記述は「承認済み変更要求には、要員マネジメント計画書でのステークホルダーとの課題の状況の変更を含める。この要員マネジメント計画書では、ステークホルダーとのコミュニケーション方法に関する変更を反映する必要がある」となっています。
PMBOK上の記述では遡ることになりますが、ツールと技法の「コミュニケーション手段」には、「コミュニケーション・マネジメント計画書でステークホルダーごとに特定されるコミュニケーション手段が、ステークホルダー・マネジメントで使用される」という記述があります。つまり、「1人ひとり、相手ごとにコミュニケーションのやり方を考える」ということです。
さらに、「顔をつきあわせた会議が、ステークホルダーとの間のコミュニケーションおよび課題解決のための最も効果的な方法である」とも書かれています。実際、コミュニケーションの中心となるべき、プロジェクト・マネージャがあまり客先に足を運ばず、限られた接点の印象だけで、「話を聞いてくれない」とか「無茶苦茶をいう」と不満をいっていることがあります。ところが、実際に客先に行って話してみると、「無茶苦茶をいう」というようなことは全くなかったという経験が繰り返しあります。
何かこじれているような状況がある場合は、大抵、本来必要な人同士が直接会って話をしていないという状況があります。すでにこじれているという印象のため、弱い立場となる納入者側のマネージャは余計に腰が重くなります。
しかし、何か問題が発生しているかのような場合こそ、すかさず適任者とマネージャが「顔をつきあわせた会議」をするべきです。なかなか開発側と会おうとしない、あるいは会うことができない顧客側の担当者も見かけますが、何とか少しでも直接会って話すことができる状況を作り出す必要があります。大抵は何事もなかったかのようになるはずです。もちろん話す内容も大事ですが、とても長くなりますし、状況次第ですので、ここでは記述しません。
さらにPMBOKの記述を遡ると、プロセスの説明文に、「積極的なステークホルダー・マネジメントにより、ステークホルダーとの未解決の課題が原因でプロジェクトが横道にそれる可能性を減少させ、各人の相乗効果のある働きを促進し、プロジェクトの実行中に破綻することを抑えることができる」という記述があります。
これらの記述からイメージできるのは、顧客とのレビュー会議などで、常に顧客側マネージャは、怒りをあらわにしていて、何かにつけ、文句をいったり、恫喝をしたりしており、開発側のマネージャは、特に反論などすることもなく、黙って聞いていて、所々で謝っていたりなどするという図柄です。
そしてその会話からは、問題点の根本的な原因を明確にすることも、それらへの対処としての具体的な活動も得られません。つまり、横道にそれているということです。
何か問題が発生したこと自体が問題視され、そもそもの原因究明も効果的な解決策の検討も行われません。開発側担当者に対する顧客側の信頼はなくなり、すべての会話が不信感の元に行われています。極論をすれば、担当を交代させるという所にまで行ってしまう場合があるということだと思います。
ですから、顧客側との話し合いの結果、いきなり「承認済み変更要求」となり、その対象は「コミュニケーション・マネジメント計画書」ではなくて、「要員マネジメント計画書」ということになっていると捉えられます。
ただし状況によっては、顧客側担当者を変えるということも、当然考慮に入ってくることと思います。顧客側担当者も「要員マネジメント計画書」には記載されているはずです。本来、顧客側担当者と開発側要員で、一緒にプロジェクトを進めるという意識が必要です。
リスク・マネジメントでも「リスクに対する姿勢や許容度」「率先かつ一貫性を持ってリスクに取り組むという態度を組織として明らかに」などの記述もありますが、本当にいい大人達が簡単に横道にそれて、プロジェクトを潰していきます。自分自身、気がつくとはまりこんでしまっているのではないかと思えることもあります。
また、その自覚もない場合が多いです。大抵の失敗プロジェクトは、プロジェクトマネジメント以前の問題といえるのではないかと思いますが、結果としてそれらを何とかしていくのがステークホルダー・マネジメントということになります。
ちょっと考え方の工夫をするだけで、まさに「相乗効果のある働きを促進」することができて、とても楽しいプロジェクトに仕立て上げることができるのにもかかわらず、わざわざ嫌な気分になるようにしむけていると受け取れるような言動を見ることがあります。
見方を変えると、何か書籍などに解決策を求めるのではなく、自分自身の心の動きを良く考え、相手の置かれている状況をひとつひとつ考えるか、それが難しければ、自分自身の置かれている状況を冷静に分解し、それぞれじっくり考えてみた結果を落ち着いて伝えあえば、解決できることが多いともいえる領域です。
次回(最終回)は、「成功確率を高める記述」についてです。
|
前のページ 1 2 3
|
|
|
|
著者プロフィール
株式会社イマジンスパーク 深沢 隆司
株式会社 イマジンスパーク 代表取締役
陸上自衛隊少年工科学校第25期生。対空戦闘指揮装置の修理要員として自衛隊に勤務。退職後に一部上場企業や官庁でのシステム開発等で仕様策定、プロジェクトマネジメントに従事し、独自の手法で成功に導く。著書は『SEの教科書』他。
|
|
|
|