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セマンティックWebによる情報統合 〜Web 2.0と情報活用を支えるメタデータ
セマンティックWebによる情報統合 〜Web 2.0と情報活用を支えるメタデータ

第5回:セマンティックWebの将来
著者:野村総合研究所   田中 達雄   2006/10/2
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今後の課題

   現時点では、これら材料が揃った段階であり、「そこから得られる情報をどう組み合わせ調理すれば、美味しくいただけるのか」はこれからの課題となる。そして同時に、多くの材料から収集した情報を思いのままに組み合わせる技術が必要となる。それが「セマンティックWeb」である。

   今のままでは、個別の材料から情報を収集することはできたが、それぞれの情報が独立した状態であり、多くのことはわからないままとなる。例えばAmazonでは、買い物をすると過去の購買履歴からお勧めの書籍をリコメンドするが、過去興味があった書籍と今興味がある書籍は一致しない場合があり、その場合はリコメンドの効果がない。過去の購買履歴だけという独立した情報からしか分析できないからである。

   しかしGPS携帯から、「恐竜博物館」に昨日行ったことがわかり、その場で「フューチャー・イズ・ワイルド」の本を買ったことがICカードからわかり、さらにRFIDからその時いくつかのDVDを手にとっては棚に戻し、「フューチャー・イズ・ワイルド」のDVDが在庫切れだったことがわかったとしたら、「フューチャー・イズ・ワイルドDVD-BOX」をリコメンドすれば効果が高いことがわかる(注1)。

※注1: 筆者は、8月中頃、幕張の恐竜博で「フューチャー・イズ・ワイルド」の本を息子のために購入した。そのときDVDは置いてなく、DVDが販売されていることも知らなかった。9月初め市の図書館で偶然そのDVDを見つけ、DVDが販売されていることを知った。その間、どこからもリコメンドはなかった。リコメンドしてくれるところがあればそこで購入しただろう。


情報と情報をつなぎ合わせるセマンティックWeb

   このように複数の異なる材料から得られた情報を上手く組み合わせることで、消費者が今何を望んでいるかを緻密に分析することが可能になる。しかし、そのためにはまったく異なる様々な材料から得られる情報を、単にデータフォーマット(メタデータレベル)を合わせるだけでなく、情報(レコードレベル)同士を意味的につなぎ合わせることが必要となる。これを可能にするのがセマンティックWebである。

   セマンティックWebは、このように「タギング/フォークソノミー、マイクロフォーマット」といった個別の問題解決だけでなく、リアル世界とバーチャル世界の融合、ユビキタス社会、そして究極のマーケティングを実現するための基盤技術としてWeb世界に広く浸透していくことになるだろう(注2)。

※注2: 応用範囲は、消費者を深く知る方法に限らず、消費者へのアテンション方法へも影響を与える。例えば、単に指定したURLからフィードを受け取るRSSリーダを意味レベルで情報をフィードもしくはフィルタリングできるものに変えたり、単なる文字列検索だった検索エンジンを意味的にパーソナライズされた検索エンジンに変えたり、といったことが考えられる。


エンタープライズ・セマンティックWebが実現するSOA時代のシステム・アーキテクチャ

   SOAとは、企業が市場の変化に合わせ実業務の変更や拡張をする場合、システム側でもすばやく対応できるように、既存システムを業務プロセスに即したサービス単位に解体(アンバンドル)し、再構築(リバンドル)するアーキテクチャである。

   そのため統合単位は、従来の「システム単位」から「サービス単位」となり、データ交換する相手が多くなる可能性が高い。その場合、「第4回:統合技術として導入が進むセマンティックWeb」で解説したような問題が起こる可能性がある。

   エンタープライズ・セマンティックWebは、SOAのそういったデータ交換に関する問題を解決する技術として位置づけることができる。先に述べたとおり、SOAは変更に対し柔軟性の高いシステムを構築する概念であり、今後進むべきアプリケーション・システムのアーキテクチャの1つであるが、現在のSOA実装製品や技術の多くはサーバ側に偏っている(図2)。

サービス統合に偏った標準仕様
図2:サービス統合に偏った標準仕様
出典:野村総合研究所

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野村総合研究所 田中 達雄
著者プロフィール
株式会社野村総合研究所  田中 達雄
1989年4月に富士通株式会社に入社。ソフトウェア工学を専門分野とし「UMLによるオブジェクト指向開発実践ガイド(技術評論社出版)」を共著。2001年2月に野村総合研究所に入社。現在、情報技術本部にてIT動向の調査と分析を行うITアナリスト集団に所属。Webサービス/BPMなどの統合技術、エンタープライズ・アーキテクチャなどが専門。


INDEX
第5回:セマンティックWebの将来
  はじめに
今後の課題
  サービス統合とデータ統合の両立