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オープンソースの適用可能性を示す
オープンソースの適用可能性を示す

第1回:ユーザ企業におけるOSS浸透のカギはメインフレーム世代のSE
著者:NPO法人オープンソースソフトウェア協会  小碇 暉雄
2006/3/13
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オフショアの技術者は業務ソフトの開発スキルが不足

   20世紀の国内IT市場は、WindowsやERPなど、欧米のソフトウェア製品に席巻された感がある。そして21世紀は、アジア諸国が勢力を拡大しそうな気配だ。中国とインドの安価で優秀な人材が、既にどんどん日本市場で活躍しているのは周知の事実だ。UMLモデリングとJ2EEに基づくオブジェクト指向設計の開発で優れている上に、プロジェクト管理面でもCMMIの高レベル取得業者が多く、この面でも日本が後塵を拝する状況にある。加えてベトナム、タイ、さらにはロシアなど後発の諸国も急速に力をつけている。では日本が優位になり得る道はないのだろうか。

   OSSの活用にこそ、そのきっかけがあると筆者は見る。特にマルチメディアデータを扱い、日本的情緒を組み込んだアプリケーションの分野には、大きな可能性があると考えるが、詳しく触れるのは別の機会にしたい。

   日本人は創造性に優れているとは言い難いが、先人の作品や技術の良い点をマネ、それを超えたものを作り出す能力に優れている。匠の世界は、その最たるものだろう。

   オープンソース文化の発展には、この日本人の特性が大きなカギを握る。OSSは、美しい花を咲かせたり美味しい果実を実らせる苗木のような存在だ。良い苗木を見極める鑑識力と的確に育てるための読解力を、日本人は備えているのだ。

   中国やインド、それに続く諸外国では、血眼になってソースコードを読んだ経験はないだろう。アジャイルな開発では、常にユーザと会話しつつその声を判読し調整してソースコードに具現していく。そこでユーザとの対面役となり、プログラマに託したソースコードを点検する役は、近代開発手法とともに育った若手やオフショア技術者では難しい。筆者の経験でも、かつてユーザサイドで体験学習してきたメインフレーム世代の技術者こそ、適役であると確認されている。

   メインフレーム世代の技術者とOSSを組み合わせた取り組みは、随所ではじまっている。日本医師会が推進しているORCAプロジェクトでは、診療報酬明細書計算レセプト処理をOSSとして配布する。プログラミング言語にはCOBOLを採用し、メインフレーム世代のCOBOLプログラマも活躍できるようにしている。オープンソースのCOBOLコンパイラも開発した。またOLTPに日本製の「MONTSUQI」(紋付)、スクリプト言語に「Ruby」を採用するなど、国産にこだわっている(図1)。

ORCAシステム構図
図1:ORCAシステム構図
資料提供:日医総研

ビジネスシステムをベンダーの支配から開放せよ!

   OSSを使う場合は、ユーザの「自己責任」が原則だ。無料で入手できるが、期待どおりに動かなかったり使用に耐えない品質であっても、誰のせいにもできない。期待はずれだったら自力で改変し、望ましい形に仕上げていく。

   そのかわり、商用ソフトのように改変の内容や時期、使用条件などを、ベンダーの一存で決められることはない。もちろん、1ユーザが常に自力で改変し続けるのは負担が大きい。企業によってはその能力を備えた人材を育成・確保し続けるための人件費が重くのしかかる。

   なるべくならば、多くのユーザがソフト利用のメリットを享受でき、改変作業は分担するようにしたい。こうしたコミュニティが生まれ、育つことがOSSの進化と普及のカギとなる。

   最近では、インターネットのような公開されたネットワーク上で、衆人監視のもと、多くの知恵が寄せられながらOSS開発が進められるようになった。その結果、速やかにかつ高い品質を確保でき、個別のリクエストへの柔軟な対応が可能となった。ベンダー主導のトップダウン的な開発から開放され、ユーザは自らが参加するコミュニティで、積極的に開発を進められるのだ。詳しくは、エリック・レイモンド氏の「伽藍とバザール」をお読みいただきたい。OSSによるソフト開発は何が違うのか、深く理解していただけるだろう。


OSS普及を目指しNPO団体が次々に発足

   ソフトウェアは本来、使われている間に変化・進化させられるものだ。多くの人の厳しい指摘を受け、それに応えながら満足度を向上させていく。この進化を積極的に進めようというのがOSSだ。

   優れたOSSには、強力な開発コミュニティ(共同体)ができる。コミュニティは、従来の商用ソフト製品のように、なるべく多くの人に共通仕様で使ってもらおうとは考えない。個別要求に柔軟に対応しようと考えるのが通例であり、重要な点だ。

   もちろんコミュニティは、一朝一夕に形成されるものではない。OSS普及上の最大の難関は、OSSを扱う技術者の不足だといわれている。特に、実際の「修羅場」の経験が問われ、そのための地道な活動も行われている。

   NPO法人「オープンソースソフトウェア協会(OSSAJ)」はOSS活用の推進をはかる団体だ。NPO法人「OSCARアライアンス」とも協力し、ニュートーキヨーの開発した外食業向け受発注システム「セルベッサ」のOSS版などを積極的に展開している。

NPO法人「オープンソースソフトウェア協会(OSSAJ)」
http://www.ossaj.org/

NPO法人「OSCARアライアンス」
http://www.oscar.gr.jp/

   OSSと類似する「フリーソフトウェア」の普及をはかるNPO法人「フリーソフトウェアイニシアティブ」とも、理事や会員の交流とイベントなどで積極的に連携している。また2005年5月に発足したNPO法人「新潟オープンソース協会」は、地域振興策として「Niigata Linux」の開発やTokiブランドソフトウェアの認定制度を設けるなど、新潟ブランドOSSを世に広めようとしている。

NPO法人「フリーソフトウェアイニシアティブ」
http://www.fsij.org/

NPO法人「新潟オープンソース協会」
http://www.niigata-oss.org/

   OSSの発展は、1ベンダー/1ブランドで市場が占有されるのではなく、地域や個人にあうよう、様々なブランドが生まれ栄えるのが理想だ。日本は、コンビニエンスストアのそばつゆの味付けを地域で変えるような細かい芸が得意だ。この繊細さは、諸外国から見た日本の魅力となっている。OSSは、ソフトウェア文化でその日本的繊細さを発揮する何よりの素材となるはずだ。

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NPO法人オープンソースソフトウェア協会 小碇 暉雄
著者プロフィール
NPO法人オープンソースソフトウェア協会  理事
小碇 暉雄

1967年から三菱電機で35年間コンパイラやDBMSの開発と、業界での標準化に従事、1999年以降(株)ハイマックスでユビキタスコンピューティングのニュービジネス創出のためのコミュニティ活動や、NPO法人「オープンソースソフトウェア協会」でのOSS活用推進活動に従事している。主な著書に「オープンソースで人が繋がる」(イデア出版局)がある。


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  ソフトウェア産業の変革
  システム刷新の選択肢にOSSを加える企業が増加
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