DevRelの主なKPI

2024年3月27日(水)
中津川 篤司
今回は、DevRelを行っている企業が、どのような点に重きを置いているのかについて、その主だった測定指標(KPI)を紹介します。

はじめに

DevRelはマーケティング活動であり、自社サービスや自社と外部の開発者との間に良好な関係性を築くことが目的です。そして、この「良好な関係性」というのが問題になりがちです。良好な関係性というのは定性的なものになりがちで、可視化が難しいのです。

この可視化を面倒がってしまうと、DevRelの成果を正しく判断できなくなります。その結果、DevRelを行っている意義を見出せなくなったり、費用対効果が分からなくなって予算削減といった結果につながったりします。

そこで今回は、DevRelにおける主立った測定指標(KPI)を紹介します。他社がどのような点にKPIを置いているかを学ぶことで、DevRelの成果を正しく判断できるようになるでしょう。

DevRelにおけるKPIの種類

KPIを設定する上で、いくつかの見方があります。

  1. ファネル
  2. カテゴリー

ファネル

「ファネル」とは、マーケティングでいうファネル分析のことです。パーチェスファネルやAIDMAモデル、AARRRモデルなどが知られています。ユーザー体験を獲得から収益までの層に分けて、どの層に対してどうアプローチするかを定義する手法です。

DevRelにおいては、AARRRモデルを拡張したAAARRRPモデルが有名です。これは現Vonage(旧Nexmo)にて考案された考えで、「DevRelCon London 2016」にてPhil Leggetter氏が発表したものになります。

AAARRRPモデルでは、ユーザー体験を以下の層に分けて考えます。

  • Awareness:認知
  • Acquisition:ユーザー獲得
  • Activation:ユーザー活性化
  • Retention:継続
  • Revenue:収益化
  • Referral:紹介
  • Product:製品

カテゴリー

「カテゴリー」とは、DevRelの3Cをベースとして、DevRel活動をカテゴリー毎に分けて考えます。

  • コード
  • コンテンツコミュニケーション
  • 教育

これらのカテゴリーを基礎として、結果をKPIとして設定および測定します。

主なKPI

それでは、実際にKPIを紹介していきます。なお、今回紹介するKPIがすべてではありません。企業やプロダクトのステージ、予算などによって求められる結果も変わってくることに注意してください。

ファネル

前述したAAARRRPモデルで考えると、プロダクトの初期段階におけるDevRelは認知度獲得のために行われます。ある程度ユーザーが集まると、利用量であったり、解約率が指標になってくるでしょう。

・サイトやブログのPV・UU
サービスやブランド認知という面において、PVやUUは一定の指標になります。最初はコンテンツを積み重ねることで右肩上がりに伸びていきますが、徐々に伸び率は下がっていきます。そのため、初期の頃は良いですが、中期以降は別なKPIを必要とするでしょう。

・問い合わせ数・登録数
Webサイトへの訪問者はユーザー登録してくれたり、問い合わせにつながれば一定の成果になります。無料でも使えるサービスであればユーザー登録ですし、最初から有料のサービスでは問い合わせからはじまるケースもあるでしょう。

この場合、どこを起点としてユーザー登録に至ったのかを記録することが大事です。Web検索もあれば、ウェビナーやソーシャル、EXPOなど入り口は多数考えられます。有効な入り口が分かれば、そこを強化してより大きな成果が得られることでしょう。

・APIコール数・利用者数
開発者向けのサービスでは、利用者が常にWebサイトに訪れてくれる訳ではありません。APIベースでサービスを提供するなら尚更です。ユーザーの利用動向はAPIコール数や転送量などで判断されるでしょう。

APIコール数が伸び悩んでいる場合は、役立つコンテンツを追加したり、ハンズオンの実施、別サービスとのコラボレーションなど、活性化施策が必要になります。ユーザーにアイデアを与え、より使ってもらえるように促します。

・解約率
ユーザー登録数が一定数増えていけば、解約数も徐々に増えていきます。一定数は致し方ありませんが、放置しておけば事業の継続リスクにつながってしまいます。この領域ではカスタマーサクセスが有効ですが、DevRelでも貢献できる面はあります。

この対応としては、メールマガジンなどによる想起、新しい魅力的な機能開発、ユーザーサポートの充実などが挙げられます。ユーザーの離脱が防げれば、ビジネスインパクトも大きなものになるでしょう。

・採用数
プロダクトがまだ初期段階の場合、手放しに増えていくユーザー登録ではなく、1社1社手厚いサポートが必要かも知れません。また、より大規模なシステムでの利用を想定する場合、ユーザーが勝手に登録して使い始めてくれることを期待するのは難しいでしょう。

今でこそ有名な決済サービスであるStripeも、初期のステージではユーザーになる1社1社をていねいにケアしています。

●スタートアップを経営すること (Startup School #18, Patrick Collison)
https://review.foundx.jp/entry/running-your-startup

コード

DevRelは開発者向けの施策なので、コードは大事な要素です。特に最近ではSDKや、プロダクト自体をオープンソース・ソフトウェアとして公開することも多いので、コードに関係するKPIも考えるべきでしょう。

・ダウンロード・インストール数
SDKをpipやrubygems、npmなどで公開している場合、そのインストール数は簡単に見つけられます。インストール数 = 採用数ではないため注意が必要ですが、インストール数がある程度あればユーザーは採用する際に安心できるでしょう。

・ウォッチ数・スター数
GitHubでオープンソース・ソフトウェアを公開している場合、そのプロダクトの優劣を判断する上でスター数が注目されます。同じようなプロダクトやライブラリがあった場合、スター数が多いものを採用したいと考えるでしょう。

スターを押したユーザーを分析すれば、どういったバックグラウンドを持った開発者に興味を持ってもらえているかが分かります。意外な国や背景を持った開発者から注目されているかも知れません。

・開発のコントリビューター数
プロダクトをオープンソース・ソフトウェアとして公開している場合、自社だけの開発ではなく、外部の開発者が開発に参加してくれることが望ましい姿です。その場合はPRの数であったり、Issue内でのコミュニケーションが大事になります。

コミュニケーション

DevRelは開発者との関係性作りに主眼を置いているので、コミュニケーションはとても大事な要素です。

・フォロワー
ソーシャルメディアであれば、フォロワーの数を測定しているケースが多数あります。日本であれば、一番注目されるのはXアカウントでしょう。また、YouTubeやGitHub、Qiitaの場合もあります。

なお、フォロワー数を単純に増やせば良いというものではなく、その質が問題になります。リポストやいいね数が少なければ拡散力がとても弱いため、あまり意味がありません。

・イベント実施数
開発者との接点作りのためにイベントを実施するプロダクトは多いです。特に最近では、オンラインイベントなら手軽にはじめられます。そのためイベントが溢れかえっているように見えるので、その中で目立つためには工夫が必要でしょう。

プロダクトの初期段階であれば、まずイベントを実施してみるという姿勢が大事です。やっていく中で失敗を経験し、徐々に改善していくものです。そのため、初期段階に限りますが、KPIとしてイベント実施数を置くのも悪くありません。

・イベント参加者数
イベントを何度も実施して慣れてきたら、参加者数をKPIにおいても良いでしょう。この場合、同じカテゴリーのイベントを繰り返していては累計参加者数は伸び悩むため、注意が必要です。

KPIとしては、参加者の絶対数はもちろんのこと、新規参加者と継続的参加者の割合にも気を配るべきです。特にコミュニティを作るのであれば、その割合は半々、もしくは若干継続的参加者が多いくらいの方が良いでしょう。

・コミュニティ参加者数
コミュニティはオフライン・オンラインどちらも考えられます。オンラインであればSlackやDiscordへの参加者数を測ったり、オフラインではイベントへの参加者数を見るでしょう。

オフラインの場合は会場のキャパシティ制限があるので、参加者数の頭打ちが出てしまいます。また、一都市で繰り返すにも限度があります。定量的に参加者数を見るならば、オンラインの方が分かりやすいでしょう。

・コミュニティ内でのアクティビティ数・率
コミュニティ内でのアクティビティは、ツイート数だったり、チャットでの対話数、リアクション数などが指標になります。活発な活動が可視化されれば、より多くの対話が生まれるでしょう。

コミュニティ内において一定のROM(Read Only Member)が発生するのは致し方ありませんが、発言するのが同じ人ばかりでは飽きられてしまいます。コミュニティ参加者数に対する発言者の割合を計測することで、コミュニティの活性度が分かるでしょう。

・有志のブログ投稿数
利用者が活性化すれば、ユーザーによるブログ投稿数が増えていきます。そうした非公式の情報発信を重視するならば、その発生頻度を測定しましょう。また、発信を促すような施策が必要です。

そのためには、コミュニティ内での対話を通じて促したり、チャンピオンプログラムをはじめたりといった施策が考えられます。アドベントカレンダーの時期であれば、それに合わせた企画を考えても良いでしょう。

・ユーザーフィードバック
コミュニティから得られる大きなものの1つがフィードバックです。フィードバックを開発チーム内で共有し、開発の優先度を考えるべきです。このフィードバックを生み出す雰囲気や、関係性の構築はとても大事です。

おわりに

今回は、DevRelにおける主立ったKPIを紹介しました。もちろん、これがすべてではありません。何を重視するかは、企業の考え方やプロダクトのステージなどによって変わります。ただ、大事なのは「KPIを達成することがプロダクトや企業の成長につながる」と言えることです。これが曖昧だと、DevRelで成果を生み出しても「それに何の意味があるのか」と問われかねません。

KPIは定期的に見直されるものです。サービスで重視すべき内容が変われば、KPIも自ずと見直しが必要になります。今回紹介したKPIを踏まえて、今の状況に合わせたKPIを再設定してみてはいかがでしょうか。

オープンソース・ソフトウェアを毎日紹介するブログMOONGIFT、およびスマートフォン/タブレット開発者およびデザイナー向けメディアMobile Touch運営。B2B向けECシステム開発、ネット専業広告代理店のシステム担当を経た後、独立。多数のWebサービスの企画、開発およびコンサルティングを行う。2013年より法人化。

連載バックナンバー

システム開発技術解説
第23回

DevRelとオープンソース・ソフトウェアの関係

2024/4/26
今回は、DevRelとオープンソース・ソフトウェアとの関係について解説します。オープンソースはコミュニティであり、コードがコンテンツにもなるため、DevRelとの相性はとても良いと言えます。
システム開発技術解説
第22回

DevRelの主なKPI

2024/3/27
今回は、DevRelを行っている企業が、どのような点に重きを置いているのかについて、その主だった測定指標(KPI)を紹介します。
システム開発技術解説
第21回

2024年のDevRel予測

2024/2/28
今回は「2024年のDevRel予測」というテーマで、識者が提唱する予測をベースにいくつかのトピックに分けて紹介します。

Think ITメルマガ会員登録受付中

Think ITでは、技術情報が詰まったメールマガジン「Think IT Weekly」の配信サービスを提供しています。メルマガ会員登録を済ませれば、メルマガだけでなく、さまざまな限定特典を入手できるようになります。

Think ITメルマガ会員のサービス内容を見る

他にもこの記事が読まれています