「アドバイス」は具体的に

2024年3月5日(火)
宮川 文吾
本連載では、演出家であり脚本家である著者の経験から、他業種の視点でエンジニアに役立つ知識などを紹介していきます。

春の日差しが日に日に…と書こうとしていて、今朝はめちゃくちゃ寒かったですね。宮川文吾です。こんにちは(今朝っていつやねん)。朝晩は冷え込みますが、昼間はコートを手に持つ機会が多くなり、そろそろ体にまとわりついていたミートテックを脱ぐ季節になってきたか、とキャンペーンを行うことにしました。

この、別名「体重を元に戻そうキャンペーン」は、過去定期的に行われていますが、なかなか達成できない難関なミッションです。かれこれ20年近く挑戦し続けていますが、日本酒という命の水の魅力に取り憑かれてからは、後退一直線。美味しいものって「美しい味」と書くだけあって、クリエイターとしてはどうしても取り入れて行きたくなっちゃうんですよねぇ。。。

横で叱ってくれる方、募集中です…。

「不適切」が当たり前だったあの頃

大昔、まだ私が「ベイマックス」とか「くまのプーさん」とか呼ばれることもない現役競泳選手だった頃、1日の運動量は、それはそれは凄まじいものがありました。寮生活だったので、学校があるときは朝練、午後練の2回練習。日曜日で試合がない日は早朝練、午前練、午後練の3回練習で合計7時間、距離にすると20km以上を泳ぐ毎日でした。合宿なんて行おうものなら1日30kmを超え、仲間と「替えの体を持ってくれば良かった……」なんて会話をしていたものです。

某大阪中心のスイミングスクールに通っていた私。当時スパルタ練習は当たり前。練習中のタイムが悪ければビート板で思いっきり頭をしばかれ、背泳ぎの選手だった私はゴールタッチが上向きだったので、壁に手を着く直前にコーチの足の裏が見えたら、

「ああ、設定タイムをクリアできなかったのね…」

と悲しい思いと共にプール底へ沈められたり、プールサイドに上げられて直立不動で叱咤叱咤(激励なし)されたりしていたものです。

なにせ、平成初期のあの頃は、精神論真っ盛り。

「先生、今日お腹が痛いんですが…」
「泳いだら治る!」

「先生、今日熱が39°あるんですが…」
「水温は27°や。泳げば冷えるから治る!」

こんな調子で、毎日休まずに泳がされておりました。今では考えられませんが「ひたすら泳げば速くなる」と指導者みんなが言っていたと思われますし、アドバイスは「もっと速く泳がんかい!」「最後までスピード落さんとけよ!」などという、なんのアドバイスにもなっていない指導。それが当たり前でした。

「適切」なアドバイスとは何ぞや

あるときの大事な試合。予選5位という微妙な順位で決勝を迎えることになった私に、グループの会長から、とても貴重なアドバイスを受けました。

「お前のターンな、めっちゃ遅いねん。
 もうちょっと『ビャッ!』 と回れんか? 『ビャッ!』と」

ええ、もうやりましたとも。ターンで回るときに、心の中で「ビャッ!」っと言いながら全力で回りました。「ビャッ!」。結果、決勝4位と順位を1つ上げることができました。微妙…表彰台に上がれず。代表選手にもなれず。

「もうちょっと、具体的にアドバイスがほしい。
 雰囲気じゃなくて、理論的に教えてほしい…」

そう悩んでいた高校1年生の私にチャンスがやってきました。国内の代表合宿で、あの鈴木大地さんのコーチがいらっしゃるというのです! きっと、あのコーチに習ったら、オリンピックに出場して、金メダルが取れるんだ!

合宿2日目。前日、全く声が掛からなかった私は、泳ぎで必死にアピール。そして午後練習後半に突入した頃、とうとうそのときがやってきたのです。

「きみ、宮川くんだっけ?」
「は、はい!」(キターーーーーー!!!)
「きみのプル(著者注:水中で水を掻く腕の動作)ね、『スーーーッ』て感じだから、『シュッ』って掻くと良いよ」
「………………」

きっと、こういうのをパッと理解できる人だけがオリンピックに出られるんですね。「ああ、俺、オリンピック出られないかもしれない」と自信を喪失した瞬間でした。

人の上に立つ立場でいらっしゃる皆さまは、ぜひ、擬音ではなく、具体的にアドバイス、指示をしていただけますように、多くの従業員に代わって私からお願いします。

なんの話だ、今回は…。それでは、また!

1974年生まれ。演出家・脚本家。コンサート演出、フェス演出、テーマパークショー演出など多岐に渡る。脚本代表作は「はなかっぱ」「ベイブレードバースト神」などアニメ作品が中心。

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