”色彩の役割”を考える

2016年12月2日(金)
伊藤 博臣(いとう・ひろおみ)

連載第14回目です。前回は、配色の応用編として”色の使い方”を解説しました。今回は、日常における”色彩の役割”について知っておくべき要素をまとめました。

普段の生活で皆さんが目にする看板やサイン、広告ポスター、商品パッケージなどは、見る人が意識しなくても何かしらの意図をもってカラーリングされています。これらがなんとなく目についたり見やすかったりするのは、どのように考えられてデザインされているからなのかを少し見ていきましょう。これも、デザインを行う上で大切な考え方なので、ぜひ知っておいてください。

見て!〜“誘目性”

街中などで、特に意識もしていないのに“おや?”と目を引くポスターや看板などを見かけることがありますよね。あるいは図1のような“危険”や“禁止”を伝える交通標識などは目を引きますよね。

図1:誘目性の高いデザインの例(交通標識)

こうした“注意を向けていない対象の発見されやすさは“誘目性”と言われます。デザインを考える時には、見る人の興味や関心に関係なく注目を集めたい部分で誘目性を高めることを考えた色使いをします。無彩色よりも有彩色、特に高彩度色を使い、色相は全般的に寒色より暖色を使うと誘目性が高くなります。具体的には、白背景では「赤」、黒背景では「黄」が注意を引きやすい色になります。

“ここを見て!”“ここを見ろ!”というところには、こうした誘目性を高める色使いを意識するようにしましょう。

見つけやすい!〜”視認性”

一方、公共の場で使われている案内表示のように、注意を向けて対象を探している人には発見しやすいように、見つけやすいようにしなければなりません。その対象の“発見しやすさ”を“視認性”と言いますが、視認性を高くするには基本的に背景との違いを明確に際立たせる色使いをします。特に背景色と図の色に明度差をつけます。具体的には図2のように黄色背景に黒の文字を使用したり、黒や彩度の低い背景に文字を白を使ったりすると視認性が高くなります。

図2:視認性の高いデザインの例(案内表示)

見やすい!〜”明視性”・”可読性”

誘目性や視認性を高め、見る人が目を留めた後に重要になってくるのが“明視性”と“可読性”です。いずれも“見やすさ”のことですが、図形の場合は“明視性”、文字や数宇の場合は“可読性”といいます。例えば、みなさんもよくご存知の“非常口マーク”は、火災があった時に白煙や赤い火の影響を受けても見えるようにデザインされているんです(図3)。

図3:明視性の高いデザインの例(非常口)

誘目性や視認性と違って“注目させる目的”ではないので、注目性の高い色にする必要はありませんが、“見やすさ”や“読みやすさ”は重要なので、背景色との明度差をはっきりさせておく方が良いでしょう。

分ける!〜”識別性”

“識別性”とは「複数対象の区別と認識のしやすさ」です。色で視覚的な識別を促します。地下鉄の路線図などがその代表例です。多くの路線が絡み合う路線図は各路線を色で識別していますよね。

また、トイレのサイン(男性は青、女性は赤)や水道の蛇口(冷水は青、温水は赤)などは、識別性に見る人の印象に基づく色の“象徴性”も加味してデザインしています。色で印象を伝えることも重要ですからね(図4)。

図4:識別性の高いデザインの例(トイレの表示)

ユニバーサルデザインを意識する

案内表示や看板などの色彩を検討する場合は、色が見分けにくい色覚特性の人たちや高齢者の視覚特性を配慮して視認性、識別性、明視性、可読性を高める必要があります。

色彩だけで重要な記号を表さない

同じ形で色彩のみが異なる表示は、明確に色彩を区別できない場合があります。必ず可読性の高い文字の併用を心がける必要があります。

識別しにくい色を接する形で使用しない

赤と緑、赤と橙、黄色と黄緑など識別しにくい色の組み合わせを接する形で使用しないようにすることも重要です。やむを得ない場合は、図5のようにセパレーション効果などで識別しやすくする工夫をしなければなりません。

図5:赤と緑の配色事例

色相差があっても明度差のない色を使用しない

色相差があっても、それぞれの明度が同じであれば判別がつかない場合もあるため、明度差をつける必要があります(図6)。

図6:明度差をつけた配色事例

カラーリングを意識して街を歩こう

いかがでしたか? 特に公共的なサインや表示には視覚的に重要な役割があります。さらにユニバーサルデザインでは、色弱者や高齢者に配慮した色使いやデザインが考えられているということです。

普段の生活では、街中を歩いていても特に意識していないと思いますが、これからデザインの向上を考えていくのなら、周囲にあるものの“カラーリング”を意識してみてはいかがでしょうか。それだけで全然変わってきます。

それぞれの色彩が持つ役割を意識する。目に付いた看板やポスターが、なぜ目に止まったのか、どんな配色がされているのか、誰に向けてコミュニケーションしようとしているのか、などを考える。気になったものは自分で写真を撮ってストックしておく。そんなちょっとしたことでも、デザインスキルは向上します。ぜひやってみてください。

次回もお楽しみに!

著者
伊藤 博臣(いとう・ひろおみ)

大阪芸術大学卒、大阪の制作プロダクションRECでグラフィックデザイナーとして勤務後、大手建材メーカー大建工業の広告宣伝部を経てフリーに。1997年広告機動隊を設立、広告・通販カタログ・ブランディングを中心にアートディレクターとしてクライアント企業の売上向上に努めている。

e-mail:h-ito@kidotai.com
URL:www.kidotai.com

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