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TOMOYO Linuxメインラインへの挑戦
第1回:熱い言葉に背中を押されて 話者:NTTデータ  原田 季栄   2007/9/21

株式会社NTTデータ  原田 季栄

株式会社NTTデータ
原田 季栄

1985年北海道大学工学部応用物理学科卒。同年NTTに入社し、現在はNTTデータ技術開発本部に勤務。2003年よりオープンソースの研究開発に従事し、シンクライアント、Linuxのセキュリティ強化に取り組む。「使いこなせて安全」を目指すセキュアOSとして知られる国産セキュアOS、TOMOYO Linuxのプロジェクトマネージャ。

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すべては「Japan Technical Jamboree」からはじまった

— 現在TOMOYO Linuxプロジェクトでは、メインライン提案に向けて活動をされているわけですが、最初にその経緯についてお聞かせください

原田氏:意外に思われるかもしれませんが、実はプロジェクトとしてメインライン提案やOttawa Linux Symposium 2007(以下、OLS)で発表を行うということは、まったく計画していませんでした。その方針を転換するきっかけとなったのが、2006年の暮れに行ったCELFでの紹介と2007年2月に行ったYLUG(Yokohama Linux Users Group)カーネル読書会での発表です。
TOMOYO Linuxプロジェクトマネージャ NTTデータ 原田 季栄氏
図1:TOMOYO Linuxプロジェクトマネージャ NTTデータ 原田 季栄氏

CELFはConsumer Electronics Linux Forumの略で、ソニー、松下電器などが中心となっているLinux組み込み家電についてのワールドワイドなフォーラムです。

Consumer Electronics Linux Forum
http://www.celinuxforum.org/

そのCELFが毎月国内で開催している「Japan Technical Jamboree」と呼ばれる技術勉強会があります。そこの事務局をされているソニーの上田氏から「国内の組み込みLinux開発者にTOMOYO Linuxを紹介して欲しい」と依頼を受け、2006年の12月に発表を行いました。JamboreeはCELFメンバー以外でも参加でき、資料についてもWikiで公開されています。Linuxらしくとてもオープンです。


今年春に開催されたOSC2007(Open Source Conference 2007)で「組み込みセキュアOSの動向」として発表がありましたが、今組み込み家電製品の分野では、セキュリティの強化が現実の課題として大変関心が高まっています。

そうした背景の中、この第12回のJamboreeでは、TOMOYO Linux以外にもSELinuxやLIDSなどの関係者が参加し、まるまる「組み込み家電におけるセキュアOS特集」の1日となりました。会場となった中野サンプラザの会議室は立ち見が出るほどの盛況でした。

OSC2007「組み込みセキュアOSの動向」(セキュアOSユーザ会講演資料)
http://www.asahi-net.or.jp/~jg3h-snj/osc2007/embedded_secureos.pdf

この日は組み込み分野の方々へTOMOYO Linuxをはじめて紹介する機会でしたので、基本的な機能の紹介およびデモを行いました。また「BusyBox」と呼ばれる組み込み分野に固有の機能への対応状況なども紹介しました。

※注1: BusyBox
UNIXで標準的なコマンドやツールを1つの実行プログラムとして実装したもの。小さいファイルサイズに実装されているため、組み込み系を中心に利用されている。

同じセキュリティの強化であっても、一般のサーバと組み込み家電での利用では状況が異なります。CPUは低速で、メモリやストレージの容量は小さければ小さいほど良く、ログインしないで利用するという利用環境を考えると、SELinuxは、必要以上であり複雑すぎるでしょう。

その点、TOMOYO Linuxは「使いこなせる」を目指して開発されたセキュアOSですが、BusyBoxにも対応し、ファイルシステムに依存しないなど、組み込みに適したセキュリティ強化Linuxとなっています。

私は「TOMOYO Linuxは国産のセキュアOSであり、日本語で要望、質問を受け付けることができます。SELinuxに機能を追加するのは大変ですが、TOMOYO Linuxであればすぐに対応できます」という言葉で説明を締めくくりました。しかし、その後の質疑の内容はまったく予想していないものだったのです。


TOMOYO Linuxの機能強化より、メインライン化の道を!

— 予想していない質疑とは?
原田氏:参加された方々からはTOMOYO Linuxの機能自体に関する質問や要望はほとんどなく、「ぜひメインラインに入れて欲しい」「メインラインに挑戦して欲しい」という声が続いたのです。

メインラインとは、Linuxの標準となるソースコードを意味します。Linuxには数多くの派生バージョンやディストリビューションがありますが、そのベースとなるものこそがメインラインです。メインラインの「実体」は、vanilla kernelと呼ばれ、www.kernel.orgと呼ばれるサイトで参照できます。

www.kernel.org
http://www.kernel.org/

— なぜ組み込みフォーラムの方々から、メインラインに入れて欲しいという要望がでたのでしょうか?
原田氏:Linuxの開発はコミュニティによって支えられていますが、そのベースとなっているのはLKMLと呼ばれるメーリングリストです。このリストには、世界中に約5,000名の購読者がいて、1日に数百通のトラフィックがあります。

そこに「パッチ」と呼ばれる形でバグフィックスや新規機能が提案されています。LKMLでのやりとりをもとに、Linusおよびメンテナーと呼ばれるサブシステム毎の管理人がLinuxの仕様をコントロールし、リリースを行います。Linuxは、文字通り、時々刻々と進化しています。

現在、TOMOYO Linuxはメインラインに入っていません。メインラインに入っていないということは「ローカルな改造」ということを意味します。TOMOYO Linuxは、現状NTTデータが開発を行っていますが、プロジェクトが終了してしまうと誰も新しいLinuxでTOMOYO Linuxを使えなくなり、質問もできなくなります。それはソフトウェアとしての死を意味します。

ローカルな改造は、メインラインに入ることにより、Linuxの一部となり、世界中のコミュニティの手により発展することができるようになります。

「メインラインとして、TOMOYO Linuxを使いたい。そして使い続けていきたい」

それがCELFの方々の声でした。

セッションの最後、議長をされた上田氏からも一種の駄目押し的な「私からも是非TOMOYO Linuxをメインラインに入れることを考えていただきたいと思います。また、来年春にサンノゼで組み込みLinuxの国際会議が開催されます。確かまだ応募が間に合うはずなので、ぜひ挑戦されてはいかがでしょうか?」というお言葉をいただきました。

この「国際会議」が、2007年4月に発表を行うことになる「Embedded Linux Conference」、通称ELCでした。


Jamboreeで話をした2006年12月8日が、TOMOYO Linuxとしてはじめてメインラインを意識した日でした。


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INDEX
第1回:熱い言葉に背中を押されて
すべては「Japan Technical Jamboree」からはじまった
  強力な後押しとなったYLUG「TOMOYO Linux Night」
  挑戦の決断