ストックビジネスを変えるクライアント型SOA

2006年4月10日(月)
吉政 忠志

はじめに

   筆者はクライアント型SOAがITをベースにしたストックビジネスを変えると考えています。その理由はサービスプロバイダ側と利用者側の両方にクラ イアント型SOAならではのメリットがあるからです。今回は前半部分にサービスプロバイダ側のメリット、後半部分は利用者側からのクライアント型SOAの 利用メリットについて触れていきます。


サービスプロバイダから見たストックビジネスの弱点

   まずソフトウェアビジネスの歴史を紐解いてみます。

   ソフトウェアビジネスの世界では、以前から「ライセンスビジネスは近いうちに終焉を迎えるだろう。これからはサービスが市場の中心になるだろう」とささやかれていました。その理由はサービス中心のビジネスの収益性の高さにあります。

   ソフトウェアの世界はその昔、ほとんどのシステム案件が受託開発によるものでした。受託開発の場合は発生した開発工数のすべては1社のお客様で消費 しており、常に1社のお客様のために開発パワーを割かなくてはならず、ベンダー側から見ると収益性が低いと思われていました。

   そこで、ソフトウェアのコピービジネスとしてのライセンスビジネスが登場しました。ライセンスビジネスであれば、一度開発したソフトウェアを何社ものお客様が使用するため、非常に効率の良いビジネスを展開できるだろうという考え方です。

   しかしこのモデルの場合、ライセンスを購入したお客様からリピートオーダーをもらうためには、追加の提案を行うかシステム再構築の機会を待つしか方 法がなく、(失礼ながら)お客様というビジネスチャンスを効率よくビジネスに活かすにはいささか効率が悪いのです。しかもベンダーの経営者から見れば、売 上を予測しにくく(売れたり売れなかったりするため)、投資に二の足を踏んでしまうこともしばしばあったと思います。

   そのような時代背景から、今後はサービスによるビジネス展開(ストックビジネス)が主流になると考えられています。サービスビジネスであれば、一度 購入したお客様は翌月も、そしてその翌月も、サービスを解約するまで売上が発生することになります。月毎の売上の推移も受託開発のビジネスやライセンスビ ジネスと比べてはるかに平準化され、また売上予測も精度高く予測できるため、経営者にとって見れば非常に魅力的なビジネスとして見えているはずです。

   しかしながら、このソフトウェアをベースにしたストックビジネス(以下ASP)には1つ弱点があります。

   ASPはそのビジネスがある程度市場に浸透すると頭打ちになります。オプションを積み上げても、1社でサービスを提供している限り、そこには限界が あります。例えばASPで人事管理のサービスを展開していた場合、人事管理機能を個別にオプション化して提供した後、次の発展系サービスを自社で提供する ことが難しいです。

   なぜ難しいかといいますと、現在ほとんどのASPはWebサービスをベースにしているため、新しい別カテゴリの付随サービスや新しいサービスを実現 するために、大きな投資(ノウハウの獲得や、人材育成、システム開発も含めた投資)を行うか、他社とOEM契約を実現するしか方法がなく、いずれにせよ経 営者にとってはなかなか勇気がいる判断になります。

   大きな投資にはもちろん勇気がいります。OEMの場合は、契約を結ぶとなかなか契約を解約することができず(顧客への影響が大きすぎるため)、OEM供給元のサービスとはある意味心中するくらいの覚悟が必要になるからです(図1)。

ASPにおけるサービス拡張のハードル
図1:ASPにおけるサービス拡張のハードル

   今のASPにおける課題はこの売上の頭打ちを打破するために、また事業を拡大するためのサービス展開を、どのようにして低リスクで、かつ柔軟に行うことであると考えています。

吉政創成株式会社 代表取締役

IT業界のマーケティング分野で20年近い経験を持つマーケッター。株式会社トゥービーソフトジャパンをはじめとするベンチャー企業から大手企業まで幅広くマーケティング支援を行う。現在はマーケティングアウトソーシング会社である吉政創成株式会社の代表取締役を務めつつ、PHP技術者認定機構 理事長、Rails技術者認定試験運営委員会 委員長、ビジネスOSSコンソーシアム・ジャパン 理事長も兼任。

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