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踊るエンジニア 〜システム開発現場の風景
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第7回:タイムリミットは10日間

著者:ビーブレイクシステムズ  鹿取 裕樹   2005/8/26
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解消されない不安

   「えぇっ、どうなってるんだよ!!」

   今日も会議室に怒号が響き渡ります。

   カットオーバーを1ヶ月後に控え、プロジェクトメンバーは上海のユーザのオフィスに常駐していました。

   いつユーザが怒鳴り込んでくるかわからないため、その会議室には常に緊張感が漂っています。メンバー間での会話も自然に小声になっていき、ドアが開くたびにメンバーは体を動かさずに、横目でドアのほうをうかがいます。そして、入ってきたのがユーザであればその行き先が自分でないことを祈っていました。

   前回の最後で書いたような大爆発は1週間に1度程度、小爆発は2、3日に1度程度起こっていました。それはとりもなおさずユーザの不安が相変わらず解消されていなかったのです。


日本人社員への重荷

   中国における日本人社員はわずか10数名であり、この人数で中国内にある数ヶ所の拠点をカバーしていました。社員の中に中国の商取引に精通した人はおらず、日本語のできる中国人スタッフを頼りに事業開始の手続きを行っていました。

   いうまでもありませんが、中国と日本とでは法律・商慣習が大きく異なります。発票(パーピヨ)などの独自の制度があります。また役所で問い合わせても人によって答えが全然異なり、どの情報を信じてよいのかわかりません。

   このプロジェクトでは、企業の経理についての財政局から承認が、長い間問題になっていました。どうやら財政局の承認が必要そうだということなのですが、承認されるためには何が必要なのか、そもそも承認が必要なのかについての情報が錯綜していました。ユーザの中国人スタッフが役所に問い合わせに行きますが、なかなかはっきりとした回答を得ることができませんでした。

   承認については数ヶ月前から問題になっていましたが、ずるずると引きずり、カットオーバー1ヶ月前になってもまだ解決していませんでした。

   中国の制度に精通している人に聞くことができれば、すぐに解決しそうな問題なのですが(実際、後に中国専門のコンサルティング会社に依頼することで解決しました)、自分たちで解決しようとするとあいまいな情報に翻弄され、一向に解決することができませんでした。

   このような五里霧中のなかで、中国での事業立ち上げを任された日本人社員の不安は想像に難くないと思います。


疲弊するプロジェクトメンバー

   オフィスでの緊張感の反動から、終業後はかなりの開放感に包まれます。中国では他にすることもないため、毎晩プロジェクトメンバーで飲みに行きました。わずかな間ではありますが、うっぷんを晴らすように飲んでいました。ホテルの部屋に戻るのが深夜0時を超えるのも珍しくありません。

   こうして息抜きはしていましたが、長期間滞在していると異国での生活と日々の緊張により、プロジェクトメンバーは心身ともに疲れていきました。次第にプロジェクトの雰囲気は重苦しくピリピリとしたものになっていました。


心の支え

   筆者は日本に帰る日を心待ちにし、日本の家族とのメールでのやり取りが心の支えになっていました。

   販売管理を担当しているコンサルタントは特に忙しく、ほぼ毎日終業後も残り、飲みに行くこともできませんでした。彼には家族があり、幼稚園のお子さんがいました。父親としては幼い我が子の成長を見たいのですが、長期に渡り中国に出張しているため、それもかないません。そして異国での毎日の仕事に忙殺され、家族のことが頭から離れてしまうこともあったそうです。

   日曜日に昼過ぎまでホテルで眠っていると、彼に日本の家族から電話がかかってきて、子供が自転車に乗ることができるようになったと聞いたときには「そうや、自分には家族がいたんや」と涙がでたそうです。

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ビーブレイクシステムズ
著者プロフィール
株式会社ビーブレイクシステムズ  鹿取 裕樹
オープン系ITコンサルタント。SAPジャパン社にて、ERP導入コンサルティングを行い、そのユーザ企業の現場でJava及びオープンソースの躍動を感じ、それらに興味を持つ。その後、会社を設立。オープンソース及びJavaを用いたシステム提案活動を行い現在に至る。専門分野はSAP R/3と連携するWEBシステムのコンサルティング。


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