TOPプロジェクト管理> 常駐・派遣型から脱却できない理由
即活用!企業システムにおけるプロジェクト管理
「即活用!企業システムにおけるプロジェクト管理」

第8回:リスク管理

著者:システムインテグレータ  梅田 弘之   2005/2/7
1   2  3  次のページ
常駐・派遣型から脱却できない理由

   IT業界がなかなか常駐・派遣主体のビジネスから脱却できないのは、一括請負契約のプロジェクトで失敗するからです。もちろん経営者の多くは、一括請負型のビジネスを目指したいと思っているのですが、手を出しては火傷をするという状態が繰り返されています。確かに、規模の大きなシステム開発を一括請負型で成功させるのは難しいことです。

   ましてや10のプロジェクトのうち、9つ成功しても残り1つの大失敗により帳消しになるというのが請負ビジネスの怖いところです。かくして、経営者の多くはやはりリスクのない人月契約に頼ることになり、なかなか常駐・派遣主体から脱却できないのです。


請負ビジネスで成功するためには

   筆者の会社は、創業以来ずっと常駐・派遣型ビジネスではなく一括請負型ビジネスを貫いてきました。もちろん失敗プロジェクトもありましたが、その反省を次に生かしてプロジェクトの成功率も高くなってきたと思います。一括請負型はもちろんリスクは高いですが、その分成功すればリターン(利益)も大きくなります。また、何よりも
参加したメンバーのモチベーションが高く、スキルアップが図れるというのが大きな成果です。

   日本のIT業界が国際競争力を高めるには、派遣主体の体質を変えることから始めるべきだと思っています。そのためには、請負プロジェクトの成功率を向上させる必要があります。その具体的な対策が本連載のテーマであるプロジェクト管理力の強化なのです。

   きちんとしたプロジェクト管理体系もなく、スタッフに管理スキルを教育していない状態で請負契約を結ぶのは、トレーニングもろくにしないで山に登るようなものです。低い山なら大丈夫でしょう。しかし、高い山に登るには、当然のことながら十分な訓練や事前準備、気象情報把握などが必要になります。


リスク管理

   山登りには危険が伴います。天候が悪化したり、メンバーが病気になったり、転落したり、道を間違えたり…さまざまなリスクがはらんでいて、それに対する十分な予見と対策が必要になります。プロジェクト管理においても、リスクの予見と対策をおろそかにしてはいけません。

   PMBOKにおいてもリスク管理は1つの管理エリアとして取り上げられています。PMBOKのリスク管理は、表1のように「リスク管理計画」、「リスクの特定」、「リスクの定性分析」、「リスクの定量分析」、「リスク対応計画」という5つの計画プロセスと「リスクの監視と管理」という管理プロセスから構成されています。

管理
エリア
プロセス 入力 ツールと
実践技法
出力
Risk(リスク管理) リスク管理計画(計画) プロジェクト憲章
組織の方針
定義された役割と責任
ステークホルダーのリスク許容度
リスク管理計画テンプレート
WBS
計画ミーティング リスク管理計画書
リスクの特定(計画) リスク管理計画書
プロジェクト計画の成果物
リスク分類
実績情報
文書レビュー
情報収集技術
チェックリスト
仮定条件分析
ダイヤグラム技法
リスク
トリガー
他のプロセスへの情報
リスクの定性分析(計画) リスク管理計画書
特定されたリスク
プロジェクトの状態
プロジェクトタイプ
データ精度
確率および影響の測定尺度
仮定条件
リスクの確率と影響
確率と影響のリスク評価表
プロジェクト仮定条件のテスト
データ精度の順位
リスクの全体順位
優先度付きリスク一覧
追加分析・管理が必要なリスク
定性リスク分析結果の傾向
リスクの定量分析(計画) リスク管理計画書
特定されたリスク
優先度付きリスク一覧
追加分析・管理が必要なリスク
実績情報
識者の判断
他のプロセスからの計画資料
インタビュー
感度分析
デシジョンツリー分析
シミュレーション
定量化されたリスク一覧
プロジェクトの確率分析
コスト・スケジュール達成確率
定量リスク分析結果の傾向
リスク対応計画(計画) リスク管理計画書
優先度付きリスク一覧
プロジェクトの全タスクの格付け
定量化されたリスク一覧
プロジェクトの確率分析
コスト・スケジュール達成確率
潜在的なリスク対応方法
リスクのしきい値
リスク責任者
一般的リスク要因
定性的・定量的リスク分析結果の傾向
回避
移転
軽減
受容
リスク対応計画書
残余リスク
二次リスク
契約書
コンテンジェンシー予備費
他のプロセスの情報
プロジェクト計画書の変更
リスクの監視と管理(管理) リスク管理計画書
リスク対応計画書
プロジェクト内コミュニケーション
リスク特定と分析の追加作業
スコープ変更
プロジェクトリスク対応監査
定期的なリスクレビュー
アーンドバリュー分析
技術的な実績測定
リスク対応計画の追加作業
迂回案の計画
是正策
変更要求書
リスク対応計画の更新
リスクデータベース
リスク特定チェックリスト更新

表1:PMBOKのRisk Managementの6つのプロセス

1   2  3  次のページ


システムインテグレータ
著者プロフィール
株式会社システムインテグレータ  梅田 弘之
東芝、住商情報システムを経て1995年にシステムインテグレータ社を設立。 常駐・派遣主体の労働集約的な日本のソフトウェア業の中で、創造性にこだわってパッケージビジネスを行っている。 国際競争力のない日本のIT産業が、ここから巻き返しを図るための切り札は「プロジェクト管理」だと信じ、実践的なプロジェクト管理手法「PYRAMID」を自社開発している。


INDEX
第8回:リスク管理
常駐・派遣型から脱却できない理由
  リスク管理の計画プロセス
  リスクの監視と管理は現場・現物