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UML導入に関する考察
UML導入に関する考察

第3回:UMLを導入することで期待できる効果
著者:野村総合研究所  田中 達雄   2005/7/14
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UML採用の目的

   今回は、前回で紹介した導入事例と、詳細を紹介しきれなかった導入事例の内容を踏まえ、UMLを導入することで期待できる効果について解説する。

   まずは、前回で紹介した導入事例からUMLを導入することで期待できる効果を探ってみよう。
企業名 目的 成功要因
システム
株式会社明治座
  • システムのオープン化
  • 新技術Javaへの対応
  • 従来開発手法(DOA)と併用したオブジェクト指向開発
ネット予約 "席とりくん"
サントリー株式会社
  • 多様化するビジネスへの対応
  • コスト削減
  • 開発生産性向上
  • J2EEによるコンポーネント開発
  • コンポーネント対象機能や粒度をノウハウとして蓄積
明治生命保険相互会社(現:明治安田生命保険相互会社)
  • 次世代情報システムの基盤の一新
  • インターネット技術をベースとするWeb型システムへ移行

  • オブジェクト指向Web型の3階層モデルのシステムを開発するにあたってのUMLを含むオブジェクト指向スキルの習得
営業拠点向けの支援システム
株式会社ドトールコーヒー
  • 納品リードタイム短縮
  • 老朽化システムの一新
  • JavaアプリによるC/Sシステムの採用
  • 業務分析(業務フローをUML化)
  • トラブル対応プロマネ
  • 性能改善チューニング
BeANS
古河電気工業株式会社
  • コスト削減
  • 本格的なオープンソース採用
  • 中国へのオフショア開発(中開発者との意思伝達手段としてUMLを活用)
グループ向け購買システム
株式会社リコー
  • 組み込みプログラムの開発生産性向上
  • MDAの採用によるプログラムの自動生成
コピー機やプリンタのパーツ制御組み込みシステム
全日空システム企画株式会社
  • 大規模基幹業務システムにおける性能・品質の確保および工数・リスクの軽減
  • 反復型開発プロセスの採用
  • マネジメントの強化(Scrumの採用)
株式会社八千代銀行(2003年)
  • 勘定系システムのオープン化
  • 大規模開発に対してアプリケーションフレームワークの採用
  • MDAによって全プログラムの70%を自動生成
    構成管理ツールの活用による変更・構成管理の徹底
オープン勘定系システム「BankingWeb21」

表1:UML導入事例の目的と成功要因


UML導入が目的の成功要因になっていない例

   プロジェクトは成功しているものの、UML導入が必ずしも目的の成功要因になっていない場合がある。このような状況を導入事例より見ていく。


株式会社ドトールコーヒー

   ドトールコーヒーの事例は、AS/400上で動作していたシステムが現状のビジネスに対応しきれなくなってきたことをきっかけに、JavaアプリケーションをベースにしたC/Sシステムに移行した事例である。

   この事例でUMLが活用された場面は、要件定義を行う際に作成した業務フローチャートで開発者側が業務を理解した後、以降のオブジェクト指向設計や実装に備え、その業務フローチャートをUML化し、ドトールコーヒー側のメンバーと仕様を確認する場面で使われた。

   しかしUMLの表現力やドトールコーヒー側のメンバーのUMLスキルの問題から、新システム「BeANS」の開発を成功に導いた根本的な要因になっているとは言い難い。ドトールコーヒーでは、老朽化したシステムを一新し、発注に対する納期のリードタイムを短縮できればよく、業務フローチャートの記述をUMLにする必要性をあまり重視していなかったように伺える。


全日空システム企画株式会社

   全日空システム企画の事例は、大規模基幹業務システムを如何に成功に導くかを目的に、反復型開発プロセスを含むオブジェクト開発方法論「RUP」を採用し、かつプロジェクトマネジメントを強化すべくアジャイル開発方法論の1つである「Scrum」を併用した事例である。

   本事例の開発が基幹システムであることから、パフォーマンスや品質を最優先し、64bitマシンをはじめて採用するなどいくつか未経験リスクを抱えてスタートしている。本事例を成功に導くには潜在的リスクを見つけだして、早期に解決できるかが鍵となることは言うまでもない。

   そこで全日空システム企画が採用したのが、反復型開発プロセスを採用している開発方法論「RUP」である。この手法を用いることで、開発プロセスを繰り返し反復検証が行われて潜在的リスクを早期に発見できた。その他、反復型開発プロセスではマネジメントが重要となるため、マネジメント手法に長けたアジャイル開発方法論の1つである「Scrum」を併用することが本開発を成功に導いた。

   この事例でもUMLが使われているものの、プロジェクトを成功に導く根本的な要因になっているとは言い難い。

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野村総合研究所
著者プロフィール
株式会社野村総合研究所  田中 達雄
1989年4月に富士通株式会社に入社。ソフトウェア工学を専門分野とし「UMLによるオブジェクト指向開発実践ガイド(技術評論社出版)」を共著。2001年2月に野村総合研究所に入社。現在、情報技術本部にてIT動向の調査と分析を行うITアナリスト集団に所属。Webサービス/BPMなどの統合技術、エンタープライズ・アーキテクチャなどが専門。


INDEX
第3回:UMLを導入することで期待できる効果
UML採用の目的
  UML導入が目的の成功要因になっている例
  古河電気工業株式会社
  組み込みソフトウェア開発からの視点