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プロジェクト管理基盤
「プロジェクト管理基盤」整備のススメ〜対症療法に陥らないために〜

第3回:顧客と上司を説得する方法

著者:ウルシステムズ  本園 敏文   2007/8/24
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難問中の難問

   前回までに、プロジェクト管理手法や知識体系を有効に活用し、プロジェクトを成功に導くための前提条件として「スキルを持つ個人」「個人のモチベーション」「チーム内の連携」の3つをあげました。しかし現場で困っているマネージャーの方々からは、どうも怒られそうな「前提条件」です。

   モチベーションの高いスキルを持った個人が連携してコトにあたれば、そのプロジェクトが成功するのは当たり前です。「優秀なメンバーがいないから苦労しているのだ」との主張はもっともです。ところがこの重要性をきちんと認識していてもなお「調達できないものは仕方がない」といってあきらめているマネージャーが多いのも事実です。それは「プロジェクトが失敗するのも仕方がない」と宣言していることと同じです。ここであきらめてはいけません。

   対策についてですが、モチベーションやチーム内連携は、実践的で現場で活用できる既存の知識も少なくありません。専門書を開けば、具体的な対応策も紹介されています。しかし「スキルを持つ個人」については、プロジェクト管理の対象として扱うには問題があまりに根本的すぎるせいか、それとも問題があまりにケースバイケースで状況依存であるせいか、「知識」としてきちんと扱われることはあまりないようです。

   強いていえば「調達管理」の知識がこの問題を管轄するのかもしれません。しかし、現在のその分野の知識では、この問題を解決するにはなかなか難しいものものがあります。本当に困っているマネージャーを救うための現場の知識が、そこには不足しているからです。

   そこで今回では、前提条件の中でも特にプロジェクトへの影響が大きく、かつ対策の知識も不足している、「スキルを持つ個人」の問題について考えていきたいと思います。

必要とされるマネジメントのスキル

   「スキルを持つ個人」のマネジメントについては、最初に考えるべきことがあります。マネージャーが仕事をする相手は機械ではなく人間だということです。いつも物理法則で定められた同じ反応をする機械とは違い、昨日と今日とでは意見が異なることもあります。また、人間には様々な個性もあります。そのため、形式的な管理手法や知識体系を勉強しても、いつでも・だれにでも通用するものではありません。いわゆるヒューマンスキルと呼ばれる分野も考えていかなければならないということです。

   プロジェクトマネージャーに必要なヒューマンスキルには、顧客に納得してもらうための説明スキルや、メンバーのやる気を引き出すリーダーシップ、複数の関係者の間をとりまとめる調整スキルなどが必要になります。「スキルを持つ個人」をマネジメントするためには、このようなヒューマンスキルが必要なのです。

   手法というものは定義として形式的なものであり、以降検討していく手法もその例外ではありません。しかし実践にあたっては、このヒューマンスキルを十分に意識しつつ、相手の人間に合わせて柔軟に活用していくことが重要になります。


リスクマネジメントの技法

   「スキルを持つ個人」のマネジメントとは一見「解なし」に見える難しい問題です。こうした問題を考えていくにあたっては、リスクマネジメントの考え方を利用すると見通しがよくなります。「スキルを持つ個人」を潜在的な、あるいは顕在化したリスクとみなして、このリスク戦略に沿ってその対応策を考えるということです。

   リスクマネジメントの代表的な技法では、その対応戦略を回避・軽減・転嫁・受容の4つに分類して考えます。その概要を以下の表に示します。

リスクの回避
原因を取り除くことによって、リスクの発生自体を避ける。
リスクの軽減
リスクが現実化した場合の影響を受容可能なレベルまで減らす。
リスクの転嫁
リスクの結果と責任を第三者に転嫁する。
リスクの受容
計画を変更せず、リスクを受け入れる。

表1:リスクマネジメントの技法

   それでは、それぞれの分類ごとに、どこまで解の可能性を広げられるかについてみていきましょう。


回避策を考える

   言い古されていることですが、プロジェクトで発生するリスクというものは病気と同じで治療よりも予防が一番重要です。回避策とは、そもそもの原因を取り除くことによって、このリスクの発生自体をなくそうとするものです。回避策が有効に働けば対策を検討する必要もなくなり、これ以上のことはありません。

   では「スキルを持つ個人」という問題に対して、どのような回避策が考えられるでしょうか。本稿ではプロジェクトの前提条件を、顧客側およびベンダー側から揺さぶることによって、この問題自体をなくす試みについて考えてみたいと思います。

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ウルシステムズ株式会社 本園 敏文
著者プロフィール
ウルシステムズ株式会社  本園 敏文
シニアコンサルタント。既存のプロジェクト管理手法と知識体系をベースに、曖昧・不確実な世界から目に見える結果を引き出すための、トータルなナレッジの確立および現場へのフィードバックが目下の関心事。


INDEX
第3回:顧客と上司を説得する方法
難問中の難問
  回避策その1「顧客の要求を揺さぶる」
  回避策その2「上司を揺さぶる」