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プロジェクト管理基盤
「プロジェクト管理基盤」整備のススメ〜対症療法に陥らないために〜

第1回:プロジェクト管理基盤とは何か

著者:ウルシステムズ  本園 敏文   2007/8/10
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あきらめるしかないのか

   「今度のプロジェクトマネージャーは立派な資格をもっているらしいぞ。やれやれ、これで今度のプロジェクトは大丈夫かな?」

   現場から遠ざかっている管理職や顧客によるこのような淡い期待は、多くの場合、簡単に裏切られてしまうのが実情です。

   確かに世の中には、先輩方による多大な努力の末にまとめられたプロジェクト管理のノウハウや知識体系があります。そしてその知識を習得していることを保証する、PMPなどのマネジメントの資格もあります。

   しかしその知識体系や資格がプロジェクトの成功を約束してくれることはありません。権威あるプロフェッショナルでも、現場での効果を保証してくれる知識やノウハウを提供することは難しいのです。

   プロジェクト管理はメジャーなテーマです。多くのノウハウが溢れています。しかし教科書どおりに進まないのは、皆さんよくご承知の通りです。プロジェクト管理には職人的な一面があり、体系的にまとめられたノウハウが現場ですぐに通用するとは限りません。

   これまで蓄積されてきた教科書的な知識を、いかに現場に役立つ本当の知識に変えていくか。本連載では、その基盤づくりのノウハウを提供していきたいと思います。

テクニカルに問題を解決しようとする癖

   システム開発のプロジェクトマネージャーは、プログラマやSEといったエンジニアの経験を十分に積んできているのが普通です。膨大な技術知識を必要とする今日のシステム開発をリードしていくためには、そのような現場の開発経験が必須といえるでしょう。ところが、このエンジニア出身というところが思わぬ落とし穴になっているのです。

   問題が発生した場合、エンジニアの仕事はそれをテクニカルに解決することです。障害を引き起こしている原因を論理的に探求し、それに対してベストプラクティスに裏打ちされた定石の改善策を打っていきます。プログラムの設計を見直すのにデザインパターンを用いたり、性能向上のためのチューニングを科学的で合理的な手法や理論に基づいて進めていきます。

   理論に基づいた定石ではなく行き当たりばったりの対策を打ってもシステムの課題は抜本的な解決にはなりません。真面目にテクニカルに考えることで、本質的な問題解決につながります。それがエンジニアの仕事です。

   一方、プロジェクトマネージャーが直面する問題は、すっきりとテクニカルに解決できるものばかりではありません。マネージャーが住む複雑怪奇でドロドロとした世界では、とてもでありませんが、論理的かつ合理的な頭の使い方だけで解決策がみえてくることはありません。

   例えば「様々な理由でどうしても進捗がマイルストーンに間に合わない」状況で、それでも顧客を説得して何とか納得してもらわなければならない、といった場合を考えてみます。

   遅れた理由を理詰めで説明しただけでは顧客の説得はおそらく難しいものになるでしょう。リカバリ策として提示した案も、すんなりと認められるとは限りません。そこでは相手に訴えかけるような、ロジック以上のものが必要になるのです。それは、これまでの信頼関係であったり、熱意であったり、場合によっては駆け引きであったりするわけです。

マネージャーの問題はテクニカルな解決が難しいものばかりである
図1:マネージャーの問題はテクニカルな解決が難しいものばかりである

   このように定石に基づいた問題解決が難しいマネジメントの世界ですが、プロジェクトマネージャーの多くは、プログラマやSEといったエンジニア出身です。無意識にでも、どうしても問題をテクニカルに解決しようとする癖が残っています。

   つまり、有効性が保証された方法論に基づいて手を打とうとしてしまいます。ところがプロジェクト管理において、テクニカルな問題解決は往々にして対症療法的な解決になってしまいます。

   例えば複数の作業を並行して進めたり(ファースト・トラッキング)、重要なタスクに人を追加投入したり(クラッシング)といった手法は、プロジェクトに一瞬の安らぎを与えてくれるかもしれません。しかし並行作業は、管理を複雑にして管理を行き届きにくいものにしたり、レビュー要員の負荷を高めてレビュー効果を薄めたりするかもしれません。

   人の追加は新たなコミュニケーション上の問題を引き起こしたり、コストの問題を生じさせるかもしれません。表面化した「遅れ」という現象そのものに焦点を当てて対処しても、往々にしてすぐに別の問題が表面化してしまうのです。

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ウルシステムズ株式会社 本園 敏文
著者プロフィール
ウルシステムズ株式会社  本園 敏文
シニアコンサルタント。既存のプロジェクト管理手法と知識体系をベースに、曖昧・不確実な世界から目に見える結果を引き出すための、トータルなナレッジの確立および現場へのフィードバックが目下の関心事。


INDEX
第1回:プロジェクト管理基盤とは何か
あきらめるしかないのか
  進捗管理では進捗を管理できない?
  管理知識に対する心構え