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企業通貨
新たな潮流企業通貨〜通貨エボリューション〜

第1回:企業通貨とは何か

著者:野村総合研究所  冨田 勝己   2006/12/12
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住宅ローンを借りると、ハワイに行ける

   これだけ聞くと、まるで「風が吹けば桶屋が儲かる」のように聞こえてしまうが、「ポイントプログラム」という仕組みをご存じの方からすると、この話は常識として認識されている。

   例えば、スルガ銀行が全日本空輸(ANA)と提携して提供する住宅ローンのサービスがそれである。簡単に述べると、残高が5,000万円を超える住宅ローンを2年間利用すると、ハワイを1往復分できるだけのマイレージを貯めることができるのである。

   上記のマイレージとは、航空会社が発行している一種のポイントであり、これを貯めることで様々なサービスと交換できる。こうしたポイントやマイレージは、現在では様々な業種で導入されており、お互いに交換できるものや、他社が提供するサービスに対してもポイントが付与されるものもある。また、EdyやSuicaといった電子マネーも、仕組みとしてはポイントプログラムと酷似しているといえよう。

   ポイントプログラムや電子マネーといった、企業が独自に発行して商品やサービスと交換できるものを、野村総合研究所(NRI)では「企業通貨」と定義している。こうした企業通貨の実施・運営では、上記のポイント交換や他社サービスへの付与など、情報システムを含めた企業間連携が重要になってきている。

   では「企業通貨」とはそもそもどのようなモノであり、今後の社会や企業、そして情報システムにどのような影響をもたらすのであろうか。本連載ではそれらを紐解いていきたい。

企業通貨の定義〜流通するからこそ企業通貨〜

   NRIでは、企業通貨を「有償契約に基づいて発行される電磁的記録であって、契約に基づく範囲内で金銭債務を弁済する効力を有する情報」として定義している。平たくいえば、発行企業以外でも利用できるポイントやマイレージといった電子的価値媒体に、EdyやSuicaといった電子マネーを加えたものの総称である。

   ポイントは従来から顧客囲い込みのためのマーケティングツールとして活用されてきた。だが、それだけでは通貨のような流動性を持たないため企業通貨とは呼べない。いわば次回割引券のようなものに過ぎないからだ。例えば、家電量販店のポイントの多くは他のポイントとの交換ができず、値引きとしての色合いが強い。こうしたものは企業通貨に相当しない。

   企業通貨とは、あくまで通貨のような流動性を持つ電磁的記録である。家電量販店のポイントの場合、ビックカメラではポイントを別のポイント(電子マネー)に交換できるようになっている。こうしたポイントが企業通貨であるといえる。


企業通貨の規模と、今後の拡大可能性

   企業通貨の主要素であるポイントについて、NRIではクレジットカード、携帯電話、航空、ガソリン、家電量販店、総合スーパー、百貨店、コンビニエンスストア、ドラッグストアの計9業界を取り上げ、その中でも売上上位企業(ポイント・マイレージを提供している企業に限る)に絞って、ポイント発行高を推計している(表1)。

業界 基本指標・数値 ポイント
適用率
ポイント
還元率
(%、円/マイル)
年間
発行額
(百万円)
指標 数値
クレジット
カード
(業界全体)
ショッピング
取扱高
(百万円)
29,161,100 100.0% 0.5% 145,806
携帯電話
(上位3社)
売上総計
(百万円)
8,736,663 100.0% 1.0% 87,367
航空
(上位2社)
有償旅客
マイル
(千人・
マイル)
99,938,239 50.0% 1.5円/
マイル
74,954
ガソリン
(主要3社)
売上総計
(百万円)
7,944,577 40.0% 1.5% 47,667
家電量販店
(上位10社)
売上総計
(百万円)
4,085,836 75.0% 1.0% 30,644
総合
スーパー
(上位5社)
売上総計
(百万円)
11,694,213 50.0% 0.5% 29,236
百貨店
(上位10社)
売上総計
(百万円)
5,485,570 50.0% 1.0% 27,428
コンビニエンスストア
(主要3社)
売上総計
(百万円)
3,280,015 15.0% 1.0% 4,920
ドラッグストア
(上位5社)
売上総計
(百万円)
790,407 50.0% 1.0% 3,952
    合計:451,972

表1:各業界のポイント発行高

※注1: ポイント付与基本指標・数値は、2005年度の各業界、各社(ポイント・マイレージ提供企業のみ)の売上高や取扱高、有償旅客マイルを採用している。
※注2: ポイント適用率は、ポイント付与基本指標・数値にポイントやマイレージが適用される割合であり、NRI実施アンケート結果や各種公開情報を参考に、5%単位で設定している。
※注3: ポイント還元率は、各社がWebサイトなどで公開している情報のうち、最も低いものをそれぞれの業界の基準還元率として採用している。

   なおポイントには商品の購入に伴って付与されるものと、アンケートへの回答やキャンペーン登録などによって付与されるものなどがあるが、前者のみを市場規模推計の対象としている。また、紙やシールによって行われているものや、現金と引換にカードに金銭価値を付与する電子マネー(Edy、Suicaなど)は除いている。

   また、実際にはキャンペーンなどで購入額にかかわらず提供されるポイントがあるほか、ポイント還元率も状況によって異なる(プレミアム会員はポイント2倍、特定商品はポイント3倍など)。

   例えばNTTドコモは、独自の会員組織である「ドコモプレミアムクラブ」の会員向けに、ポイント付与率が通常の2〜5倍になるようなステージ制を採用している。そのほか、現在では100社を超える企業がポイントプログラムを提供しているため、実際に日本国内で発行されているポイントやマイレージの総額は、4,500億円を大幅に上回っている可能性が高い。

   ポイントの発行規模は、今後まだまだ拡大し続ける可能性が高い。消費者にとってのポイントの魅力が高まってきている一方で、導入企業にとってのポイントの魅力も高まってきているからである。なおこれらは企業の業態変化によるところが大きいが、業態変化については次回で詳しく述べたい。

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株式会社野村総合研究所  冨田 勝己
著者プロフィール
株式会社野村総合研究所  冨田 勝己
東京工業大学大学院経営システム工学専攻修了、2001年に株式会社野村総合研究所入社。市場調査から制度設計、アライアンス、オペレーション設計など、ポイントプログラムの導入に関する全般的な支援が主だが、情報通信業界における市場調査やマーケティング戦略立案支援、事業戦略立案支援も手掛けている。


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第1回:企業通貨とは何か
住宅ローンを借りると、ハワイに行ける
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  企業通貨導入のメリット