TOPプロジェクト管理> ベンダー選定、その選定基準
ユーザ企業によるRFP作成奮闘記
ユーザ企業によるRFP作成奮闘記

第3回:システム導入までの道のり〜そして現在
著者:日本軽種馬登録協会   羽部 勉   2006/7/20
1   2  3  次のページ
ベンダー選定、その選定基準

   前回で紹介したように、はじめての経験ということもありながらも様々なハードルを越えて、ついにRFPは完成した。次に行わなければならないことは、企業の選定方法およびその審査基準の策定である。今回の選定方式は企画提案(プロポーザル)方式で、「提案書・見積書」の評価とプレゼンテーションによる選定を行うことにした。

   提案書には必要な機能のみの記載だけでなく、当協会が保有するデータベースを有効利用するための新たなサービスや、新規ユーザ獲得のための自由な提案を盛り込んでもらった。さらにデータベースの検索速度向上やセキュリティに関する考え方、ユビキタスおよびWebサービスについての考え方についても提案書に記載してもらうことにした。これはより質の高い将来性のあるシステムの調達を目指したからである。

   審査は基本審査と総合評価で行った。基本審査では「技術」「ライフサイクルコスト」「基本部分価格」「拡張部分価格」の4つの観点により行い、次に合議での総合審査によって落札の優先順位を決定した。

   基本審査の「技術」は、提案書やプレゼンテーションから読み取れる基本的な事項について、採点表を作成し点数化して評価した。

   「ライフサイクルコスト」は当協会にとって特に重点をおいた部分だ。本来であれば純粋にシステムの質だけで評価を行いたいが、当然開発費用にも限りがある。これは本来の目的が書籍からWebに移行することによる維持費削減だからである。そのため書籍版の出版費用を最低ラインに見据えて、それを超えるものは見合わせるしかなかったのである。

   ただしライフサイクルコストがネックとなり、質の高い提案を切り捨ててしまうことは避けたかった。つまり運用経費を低く抑えることのみにとらわれて、肝心のシステムの質が落ちてしまっては意味がない。システムの質を保ちつつ、ライフサイクルの低減も狙いたい、この兼ね合いがRFPとその説明会においてもっとも気を使った部分であった。

   そこで最低限実現しなければならない核となる開発費用を「基本部分価格」とし、多少機能を譲歩できる部分および次の開発で予定している開発費用部分を「拡張部分価格」として分け、それぞれについて提案企業間を相対的に評価することにした。このようにして金額的に実現可能な提案を絞り込んでいったのである。


落札企業の決定

   今回の提案企業は全部で7社あった。当協会の基幹システムに従来から携わっている企業、新たに営業でWebサイトの作成を持ちかけてきた企業、さらにこちらから参加をお願いした企業などである。

   説明会から提案書の提出期限まで4週間である。RFPの内容に加えて、独自の提案や設計思想なども求めており、時間的に間に合うかどうかが懸念事項であった。例えばRFPには、「Aの表示については、基幹のシステムから送られてくるデータのフラグを判定して、単に決められた表示を行えば良い」など、馬に関する知識や当協会の既存システムに関する知識がなくても十分に提案できるように最大限の配慮をしている。

   しかしそれでも「本当に理解してもらえているだろうか」「この部分は難しく考えてはいないだろうか」など不安は大きかった。

   やがて提案書が出揃い、審査に入った。今回は第一次審査で簡単な提案書のチェックを行い、重大な欠陥がない限り、全社にプレゼンテーションをお願いすることを考えていた。これは提案書で抜けている部分やこちら側で理解しきれなかった部分について、プレゼンテーションを通して十分な回答が得られれば、提案書における減点分をリカバーできるようにしたためである。

   確かに、全社のプレゼンテーションを実施するのはかなりの労力を要する。しかし参加していただいたすべて企業に対して、RFPへの考えを聞いてみたいという思いがあったのである。

   それでもなんとかすべてのプレゼンテーションを終え、本格的な審査に入った。ここで思いもよらぬ苦労が発生したのである。それは提案書の書き方が各社異なっていた点だ。RFPと対比をさせながら細かい事項について審査をする際、RFPの順番と提案書の順番が異なっていて、RFPで求めている事項が提案書のどこに記載されているのか一見わからなかったのである。

   こちらの見逃しにより、公平な判断ができずに減点を行ってしまえば一大事である。プレゼンテーションの終了から最終の採否決定まで、6日しかない。また審査は情報システム部を含め数人で行ったが、やはり審査員によって評価は様々であった。

   限られた時間の中で必死にRFPと提案書のページをめくり、一社一社、一項目ごとに各審査員の評価をすり合わせていった。

   こうして最終選考により落札企業が決定した。結果的に各審査基準において突出した点数は取ってはいないものの、すべての審査項目で安定して上位にあった企業に決定した。

   なお作成したRFPに「オープンソースでのシステム構築」と明記していなかったが、7社中5社がPHPでのシステム構築の提案で、また6社がオープンソースのデータベースを利用した提案であった。これはRFPより当協会の意図を汲み取っていただくことができた結果と考える。

1   2  3  次のページ

財団法人 日本軽種馬登録協会
「軽種馬の登録を行い、軽種馬の改良増殖及び資源の涵養並びに競馬の公正な施行に資すること」を目的に設立され、各馬の血統調査、個体識別、科学的技法による親子判定を行い登録しています。登録された馬にはそれぞれの登録証明書が交付され、様々な場所で個体の確認に活用され、競馬の公正な施行や血統の保持に役立っています。

インターネット血統書データベースサービス(フルオープンソースのシステム)
馬名、輸入馬、繁殖成績、血統登録、五代血統表等の最新の公式情報を提供。保有するデータベースは70万件を超え、毎年約3万件が追加されています。
URL:http://www.studbook.jp/

日本軽種馬登録協会  羽部 勉氏
著者プロフィール
財団法人 日本軽種馬登録協会   羽部 勉
情報システム部
1999年入会。協会内での電算システムの運用・管理、関係団体とのデータ交換、WWWサービスの管理などに従事。インターネット血統書データベースサービスの調達に携わり、現在はその運用と次のサービス改善の開発管理を担当している。また当協会が保有する軽種馬データベースの有効活用の一環として、ユビキタス技術を利用した新たな情報提供サービスの調査・研究にも取り組んでいる。


INDEX
第3回:システム導入までの道のり〜そして現在
ベンダー選定、その選定基準
  キックオフからあっという間に正式オープン
  インターネット血統書データベースサービスの現在の状況