CRMの戦略性と定義をめぐる問題
顧客満足と売上げの目標が持つ問題とは?
実は、どの顧客にも同じように顧客満足度をあげることは、コスト負担を大きくして企業の成長を阻む要因となる。
そのため、インフラ系の企業(電話会社など)であれば不満客に対して重点投資し、高級商品を扱う企業なら満足客をさらに満足させることに重点を置く戦略性が不可欠となる。
また「売上げ」という指標の一面化は、営業の現場を市場シェア拡大に走らせて、営業利益率(ROI)の低下につながる。
これらのトレードオフの問題を解決する選択の視点は「顧客満足経営」にはなく、満足度アップが自己目的になってしまうCS(Customer Satisfaction)運動などが多かった。
こうしたことは、すでに欧米での顧客満足度と企業成長の関係の追跡調査でも明らかになっている。CRMの失敗率が高いといわれる背景には、ITシステム自体の問題よりも、日本では何をするかという目標設定(戦略性)の問題にとくに注目してく必要がある。
CRMの3文字用語に潜む問題
CRM導入の失敗原因を把握する上で、IT業界の在り方にも目を向けておこう。IT業界では何でも3文字用語で語ることが多い。その典型がCRMであるが、この言葉には次の3つの視点が混同されて使われていることに注意する必要がある。
- マネジメントとしてのCRM(図2:マネジメント層)
- マーケティングとしてのCRM(図2:マーケティング層)
- ITシステムとしてのCRM(図2:ITシステム層)
本来のCRMの原義はCustomer Relationship Managementである。ところが、欧米ではもう1つ「Customer Relationship Marketing」というときもCRMと称される。
特に表3の2についてはマーケティング戦略として、CRMより先にOne to One Marketingが90年代はじめよりブームになったため、その創始者ドン・ペパーズの影響がCRMにも反映されている。ただし、現在ではドン・ペパー ズ自身もCRMという言葉を使用して自著を解説することが多くなった(近著「Return On Customer」参照)。
これらは経営手法の「戦略論」としてのCRMである。そして、CRMをITシステム化の手法として強調する場合、基幹系のERPとの区別するために営業系のSFAも含めてCRMというのが、最近のIT業界では一般的となっている。