TOPThinkIT News> 総評
JBoss World Las Vegas 2006 Report
JBoss World Las Vegas 2006 Report
JBoss World Las Vegas 2006 Report

第3回:JBossコミュニティの行方
著者:野村総合研究所  岡田 拓郎   2006/9/11
前のページ  1  2  3
総評

   現在JavaをにぎわしているのはDI/AOP/Java EE 5という3つのキーワードである。DI(Dependency Injection)は、Sun Microsystems社によって標準化されたJavaのエンタープライズアプリケーション仕様であるJ2EE(現Java EE)に対するアンチテーゼとして出現し、皮肉にもJ2EEがかつて味わったことのない浸透力でWebコミュニティに受け入れられている技術である。

   また、AOPは約40年来続いているオブジェクト指向に一石を投じる新しいパラダイムであり、DI同様にWebコミュニティにて発展を続けている。そしてJava EE 5は、これらWebコミュニティで培われた技術をJavaの標準仕様として迎え入れるべくSun Microsystems社が再整備を行ったものなのである。

   現在、Javaを取り巻く環境がまぎれもなく「熱く」なっている原因は、こういったWebコミュニティがSun Microsystemsからの仕様のトップダウンを逆転したという事実にある。つまり、Javaという言語仕様に対するWeb2.0的気運が業界全体で高まっているということである。

   ここにきて、JBoss(という企業)が前述のDI(マイクロコンテナ)を取り込みはじめた、というのはSun Microsystems社の最近の動向を振り返れば遅すぎるくらいだが、それでもJBossの内部(JBoss.ORG)ではなく外部(Webコミュニティ)から見えない圧力が加わっていることのあらわれであろうと思われる。

   JBoss(Application Server)はこれまでマイクロカーネルと呼ばれる特異なアーキテクチャによって、他の著名かつSun Microsystemsの仕様に従順なアプリケーションサーバ群から一線を画してきた。

   ところがここにきて突如そのアイデンティティをかなぐり捨て、DIを全面に押し出してきたのである。この変更が意味するものは何か。既存技術の寄せ集めでは、お世辞にも「コア技術の刷新」とはいいがたい。DIを中核として、ロードマップの先端に位置するSOA基盤をどのようにJBossらしく築くのであろうか。


ひときわ目立っていたテーマである高可用性

   さて、数あるセッションの中でひときわ建設的な光を放っていたテーマは「高可用性(HA)」であった。例えば、JBoss Cacheにおけるバディレプリケーション、JBoss MessagingにおけるJGroupsの採用、JBoss Seamにおけるきめ細やかなセッションフェイルオーバー機構がその端緒であるが、いずれも大規模アプリケーションを想定した可用性とパフォーマンスの維持が考えられている。

   ここにきて、多くのJBoss.ORG関係者が高可用性について言及しているということは、SOA基盤としてのJEMS(JBoss Enterprise Middleware Suite)の整備が佳境に入ってきたことを示しているのではないだろうか。いうまでもなくSOAとは、実装方式もアーキテクチャも異なるようなビジネスプロセス上の単位要素をサービスという標準化されたインターフェースにて接続するという概念であるが、このSOAを実現するために重きを置くべきキーワードが「高可用性」だということであろう。

   前述の通り、今回のカンファレンスで話題の中心となっていた技術はマイクロコンテナである。ただし、一見したところ、これはSpring Frameworkなどの既存DIコンテナの焼き直しに過ぎない。だからむしろJBossがJBossとして今後注目されるべきポイントは、高可用性を含めたSOA基盤としての頑強性なのではないだろうか。すでに後塵を拝してはいるが、先行する他のSOA基盤製品に対してどのようなアドバンテージを築くことができるのか、これからもソースコードを通して評価していきたいと思う。

前のページ  1  2  3


株式会社野村総合研究所 岡田 拓郎
著者プロフィール
株式会社野村総合研究所  岡田 拓郎
証券系システムの基盤づくりの一環としてフレームワーク、ミドルウェアの研究開発に携わる。現在は、JBoss.ORGコミュニティのコミッタと共に性能解析ツールJBossProfilerの拡張を行っている。また、オープンソースのコンポーネントライブラリ「Nimbus」のコミッタも勤める。