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【伝わる!モデリング】シナリオの図解化

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第1回:シナリオに基づく設計とSBVA法とは?

著者:産業技術大学院大学 中鉢 欣秀

公開日:2008/04/02(水)

SBVA法とは

非技術者でもITシステムの要求分析を行えるような方法論を確立できないだろうか。そのような発想に基づき、筆者らが研究開発している方法論がSBVA(Scenario-Based Visual Analysis:シナリオ図解化分析)法である。

SBVA法は業務分析の手法の一種であり、顧客が今行っている業務の作業手順を、図解を用いてビジュアライズすることにより、システムのユースケースを抽出することができる分析手法だ。

今回はSBVA法の開発に至った背景として、業務分析のメリットと難しさ、シナリオによる手法とその問題について述べる。次回以降、SBVA法そのものの背景やコンセプト、実際の分析手順と成果物、および今後の展開などについて解説していく。

図1:システム開発のサイクル

業務分析は業務全体を深く理解するための作業

業務で用いるITシステムを開発するそもそもの目的は、業務におけるビジネス上の要求を達成するためである。ビジネス要求に合致するITシステムを正しく設計するためには、その前提として開発に関わるステークホルダ全員が、対象となるビジネスの全体像に対する共通理解を得ておくことが望ましい。

ITシステムの開発においては、ビジネスには精通しているもののITには詳しくないユーザ側の非技術者と、その逆の立場であるIT技術者とが共同で作業することが多い。このとき、IT技術者はもちろんであるが、ユーザ側の担当者であっても自分のビジネスの全体像について案外理解していないものである。

このような状況でITシステムを構築しても、ビジネス要求を達成できるシステムができ上がることはまずない。担当者がよく知っている一部の業務だけが改善された、部分最適に留まってしまう可能性もある。これを避けるためにも、業務分析を実施してビジネスの全体像を捉え、全体最適を目指すことが重要だ。

図1は、ITシステム開発において業務分析を行う場合の一連のサイクルを示したものである。まず「なま」の業務の姿を分析して「ビジネスアーキテクチャ」をモデリングする。次に、これに基づき「ITシステムアーキテクチャ」をモデリングして実装する。最後に、それを実際の業務に適用して検証する。以上のすべての過程においてビジネス要求は常に意識されるべきものである。

図中のビジネスアーキテクチャとは、ビジネスそのものの本質的な構造を記した概念モデルである。このモデリングでは、目に見える現実の裏側に潜む、本質的な「もの」と「こと」を見抜いてそれらの関係構造を分析することが重要だ。単に「なま」の業務の姿をスケッチする作業ではなく、ビジネスを成立させている論理的な構造を体系的に把握するのである。

このような業務分析を行うことの直接的なメリットは、今まで見えなかった業務の構造を形式知として表出した「モデル」が手に入ることである。なお、業務分析のメリットが単にモデルを得ることだけであると筆者は考えていない。業務分析に真剣に取り組むことで、分析を実施したモデラー自身に、いわゆる「メンタルモデル(暗黙知)」として対象業務に関する深い理解が形成され得る。もしかしたら、このような直接目には見えないメリットの方が、本当は大事なのかもしれないとも思う。 次のページ




産業技術大学院大学  中鉢 欣秀
著者プロフィール
産業技術大学院大学 中鉢 欣秀
産業技術大学院大学(AIIT)准教授。2004年、慶應義塾大学大学院にて博士(政策・メディア)号取得後、JST研究員を経て現職。ソフトウェア工学(上流工程、ソフトウェアアーキテクチャなど)に関する研究に従事。社会人学生を対象とし、プロジェクト型教育(PBL)によるソフトウェア開発プロセスの教育などを実践。
http://aiit.ac.jp/


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