「スマートコントラクト」の仕組みと「NFT」の事例

2023年8月24日(木)
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)
第6回の今回は、ブロックチェーン基盤を活用した「スマートコントラクト」と、その仕組みを利用して取引される「NFT」の事例を解説します。

CryptoKitties

世界初のNFTゲームは、2016年にリリースされたSpells of Genesisというカードバトルゲームと言われています。CryptoKittiesは2017年11月28日にリリースされたゲームですが、このキャラクターが高額取引されたことで、一気にNFTゲームがバズりました。

ゲーム自体は猫を買って交配(ブリード)させて増やし、それをマーケットに出品して売るというシンプルなものです。2018年9月6日にDragonというレアな遺伝子を持つ猫キャラクターが600ETH(当時の価格で1900万円)で売買されて話題になりました。NFTを購入する目的に売却益があります。このDRAGONは2021年3月のNFTバブルの際に同じ600ETHで売買されましたが、EAHの価格が上昇していたため1.38億円になっています。

CryptoKittiesの公式サイト

図4:「CryptoKitties」の公式サイト

Axie Infinity

Axie Infinityは2018年にリリースされたベトナム発のNFTゲームで、ゲーム内のキャラクターや土地などがNFTとして売買されます。ポケモンのようにキャラクターを育成・戦闘・繁殖できるのですが、2021年に最高額で売買されたのは土地の方で、9つの区画が888.25ETH(1.6億円)で落札されました。

Axie Infinityの公式サイト

図5:「Axie Infinity」の公式サイト

3LAU(ブラウ)

EDM(Electronic Dance Music)アーティストの3LAUは、2021年2月にアルバム33枚をNFT化して発売し、総額12.6億円で購入されています。この頃から音楽のNFT化もブームになり、世界中のアーティストが続々とNFTを発売しています。

特に2021年2月〜3月はNFTバブルのピークで、Kings of Leon、Grimes、Steave Aoki、Snoop Dogg、The Weekndなどの世界的アーティストが数億円の売上を続々と記録しています。日本のアーティストも少し遅れてこの流れに乗り、同年9月〜10月頃に小室哲哉、米津玄師、Perfume、BTS(韓国)、ONE OK ROCKなどが0.5〜1.5億円ほどを売上げています。

NBA TOP SHOT

スポーツの世界は熱狂的なファンが多いので、NFTがたくさん発売されています。例えば、2021年2月21日にレブロン・ジェームスのダンクショット映像を付属したNFTトレーディングカードが2,270万円で売買されて注目を集めました。このカードは2ヶ月後に約2倍の4,480万円で落札されています。

サッカーでは、2021年3月14日にクリスティアーノ・ロナウドのNFTカードが3,200万円で落札されました。これに続き、2021年8月21日にはメッシの「Man From THe Future」という作品が3.2億円で落札されています。野球ならもちろん大谷翔平です。2022年1月27日に大谷翔平のNFTカードが1,150万円で落札され、これが野球界におけるNFTの最高額となっています。

音楽もファンに支えられている業界なので、多くのNFTトレーディングカードが発売されています。日本ではBABYMETALが2021年9月10日に、ももクロが2021年10月6日にNFTカードを発売していますが、どちらも即日完売したそうです。

CryptoPunks

CryptoPunksは、CryptoKittiesと同じ2017年にリリースされたイーサリアム上のNFTプロジェクトです。作品自体は24×24ピクセルからなる単純なキャラクター画像で芸術性があるものではないのですが、限定10,000個しか発行されてないという希少性からマーケットプレイス上で高額売買されています。値上がりを期待して資産として保有するという点で考えるとデジタルゴールドと呼ばれる仮想通貨のような感じですね。

CryptoPunksの公式サイト

図6:「CryptoPunks」の公式サイト

クリプトアート(Crypto Art)

Cryptoは「暗号」を意味する英単語です。仮想通貨のことを暗号資産や暗号通貨とも言いますが、これを英語にするとCrypto assetとCryptocurrencyになります。この流れでNFTを紐付けたデジタルアートのことをCrypto Artと呼びます。

Beeple

これまでのNFT取引で最高額となったのが、アメリカのデジタルアーティストであるBeeple(マイケル・ジョセフ・ヴィンケルマン)が2021年3月11日に発売した「Everydays−The First 5000 Days」です。彼は毎日欠かさずアート作品を作成することを自分に課した「Everydays」プロジェクトを行っていたのですが、その5,000日分をコラージュした作品です。5,000日ということは13年半の努力の結晶ですが、これがなんと75億円で落札されました。Beepleの作品は2020年10月3日に「CROSSROAD」が6億円、2021年11月10日に「HUMAN ONE」が3億円で売却されており、まさに現代のピカソと言えますね。

Everydays−The First 5000 Days

図7:【引用元】「Everydays−The First 5000 Days

絵画の値段

ところで、普通の絵画はいくらくらいで落札されているのでしょう。気になって高額取引ベスト5を調べてみたところ、下表の通りでした。こんなに高額でも買い手がいるのは「持っているだけで資産になり、将来値上がりが期待できる」という理由が大きいわけですが、クリプトアートも“1品もの”なので、同様の思惑で購入する人がいるわけです。

表2:絵画の高額取引ベスト5

順位 落札日 画家 作品名 落札額
1 2017年11月15日 レオナルド・ダ・ヴィンチ サルヴァトール・ムンディ 508億円
2 2015年5月11日 ピカソ アルジェリアの女たち 202億円
3 2018年5月14日 モディリアーニ 横たわる裸婦 170億円
4 2019年11月13日 モネ 積み藁 120億円
5 2012年5月2日 ムンク 叫び 102億円

Jack Dorsey

デジタルアートや音楽、ゲームのキャラクター、スポーツ選手のカードなどだけでなく「こんなものまでNFTになるんだ」と思わせたものがジャック・ドーシー氏のツイートです。ドーシー氏はエヴァン・ウィリアムズ氏たちと共同でTwitter社を創設した人です。彼がTwitter初のツイートをNFTで売り出したところ、2021年3月22日に3.2億円で取引されました(全額寄付したそうです)。

NFTと実物の関係

Twitterの例のように、NFTは必ずしもデジタル資産そのものとは限りません。例えばビートルズ関連のNFTではポール・マッカートニーの「ヘイ・ジュードの手書きメモ」が880万円、ジョン・レノンのサングラスが2,000万円で落札されています。この場合のNFTは実物であることや所有権を有することの証明書になります。

美術品の鑑定書、宝石の鑑別書、ペットの血統書、不動産の登記済証などのような役割を果たすデジタル証明書ということですね。美術品だと鑑定書がなければ「なんでも鑑定団」に出演して鑑定してもらう必要がありますが、NFTを取得していれば「これは確かに本物で、私が所有している」ことが証明されるわけです。

まとめ

第6回の今回は、以下の内容について学習しました。

  • NFTは「代替不可能なトークン」であり、唯一無二であることを証明するもの
  • NFTはデジタル資産やモノそのものではなく、自分が本物を所有していることの証明書
  • NFTはブロックチェーン上のスマートコントラクトを利用して仮想通貨で取引されている
  • NFTには事前に作成したプログラムによって変化するプログラマビリティが付けられる
  • NFTはデジタルアートやゲームだけでなく、音楽やスポーツなどさまざまな分野に適用が広がっている
  • NFTの購入動機にはファンが純粋な気持ちで買うケースもあれば、資産として保有するというケースもある

今回で紹介したNFT高額取引の例は、ほとんどが2021年初め頃のものです。振り返ればNFTバブルだったわけですが、バブルが終焉したからといってNFTの利用価値が下がったわけではありません。むしろ、今でも着実にNFTの活用は進んでおり、今後さらに社会へ浸透してゆくでしょう。

次回は、メタバースにおけるNFTとDAppsという分散アプリケーションについて解説します。

著者
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)
株式会社システムインテグレータ

東芝、SCSKを経て1995年に株式会社システムインテグレータを設立し、現在、代表取締役社長。2006年東証マザーズ、2014年東証第一部、2019年東証スタンダード上場。

前職で日本最初のERP「ProActive」を作った後に独立し、日本初のECパッケージ「SI Web Shopping」や開発支援ツール「SI Object Browser」を開発。日本初のWebベースのERP「GRANDIT」をコンソーシアム方式で開発し、統合型プロジェクト管理システム「SI Object Browser PM」など、独創的なアイデアの製品を次々とリリース。

主な著書に「Oracle8入門」シリーズや「SQL Server7.0徹底入門」、「実践SQL」などのRDBMS系、「グラス片手にデータベース設計入門」シリーズや「パッケージから学ぶ4大分野の業務知識」などの業務知識系、「実践!プロジェクト管理入門」シリーズ、「統合型プロジェクト管理のススメ」などのプロジェクト管理系、最近ではThink ITの連載をまとめた「これからのSIerの話をしよう」「エンジニアなら知っておきたいAIのキホン」「エンジニアなら知っておきたい システム設計とドキュメント」を刊行。

「日本のITの近代化」と「日本のITを世界に」の2つのテーマをライフワークに掲げている。

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